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お家で灸!

~『名家灸選』にみる喘息と咳の灸~(R2/4/24)

☆参考図書
1)『名家灸選』和気惟亨他(京都大学貴重資料デジタルアーカイブ)
2)『名家灸選釈義』深谷伊三郎@刊々堂出版社
3)『漢方用語大辞典』創医会学術部主編@燎原(以下文中では『漢方』と記す)

1、はじめに

現在流行している新型コロナウイルスですが、未だ不明点が多く、有効な治療法も確立されていない状態で不安は日々つのるばかりです。
職業柄、鍼灸を使って対処が可能ではないかと考えるのですが、感染力の強さ、進行の速さや炎症の強さなどを聞くと無力さを痛感するばかりです。

今我々ができることは、政府や自治体の指示に従い、外出や人との接触をなるべく控え、身辺の消毒やうがいなどの自己防衛に努め、もし風邪様症状があれば、良く観察して医療機関へ相談することが必須だと思います。
新型コロナ関連のニュースをチェックしつつ、どうぞ皆さまもご自愛ください。

2、家でできるお灸

外出自粛の中で健康に気を付けるとすれば、早寝早起き、食べすぎ飲みすぎをしない、軽い体操などで身体を動かすこと、十分な換気、清潔さの維持などがあげられるでしょうか。
それだけでも十分風邪予防になると思います。

それ以外に何かできないか? と考えた場合、自分自身にお灸をして気のめぐりを良い状態にしておくことも有効であると考えました。
一般的な養生で使われる中脘、気海、足三里などといったツボに灸をして、胃腸を調えたり、元気が出るように促すということも良いと思います。
更に積極的に風邪予防ができないかと考えた時に、風邪の治療に使われるツボに灸をすればひょっとしたら効率的な予防ができるのではと想像しました。
あくまでも想像ですので、もしもの場合にはまず医療機関に相談をしましょう。

灸をするツボを選ぶにあたって江戸時代に書かれた『名家灸選』が思いうかびました。
これは文化二年(1818年)に和気惟亨(ワキコレユキ、浅井惟亨アサイイキョウ)という方が主に著したもので、いろいろな文献や言い伝えなどから、実際に試して効果を感じたものを載せたということが特徴の本です。
原典は京都大学貴重資料デジタルアーカイブで閲覧をすることができますが、全て漢文なので読み下しと解説を付した『名家灸選釈義』がとても参考になります。

3、注意点

実際に試すにあたってはいろいろな注意点があると思います。

  1. 改めて書きますが、風邪様症状があればまずは医療機関で診てもらい適切な処置を受けるのが大前提です。東洋医学では主に症状に対して施術をしてゆきますので、それが西洋医学的にどんな病因であるかは分かりません。そのためにもまずは医療機関で診てもらい、重篤なものではないか、指定感染症などではないかを確認した上で、補助的に灸を試した方が安全です。
  2. 本が書かれた江戸時代は、恐らく点灸と呼ばれる肌の上で少量のモグサを燃やす方法であったと思います。現代でもだいたいの鍼灸院で行われている方法ですが、少々慣れが必要ですので、家で簡単にやる場合にはカマヤミニなどの台座灸を使うことをお勧めします。ただし効果は若干異なるかもしれません。
  3. 皮膚の弱い方、化膿しやすい方、糖尿病などで痛みを感じにくい方、免疫力が落ちている方は止めた方が良いと思います。初めは少し温かみを感じたらそこで一度止めてみて灸の痕がどうなっているかを確認すると良いと思います。
  4. 本文を見れば理解いただけると思いますが、ツボの取り方は非常に曖昧なものです。おおまかな位置と考えた上で、その付近を触ってみて「効きそうな場所」を直観で決めましょう。ツボを探すために触っているとホンの少し症状が楽になったり、急にむせたりする場所があるかもしれません。お腹がゴロゴロと鳴るかもしれません。経験的にそういったツボが良く効くところであることが多いです。
  5. お灸は確かに熱いですが、我慢・忍耐をするものではありません(少なくとも現代では)。不快感がある場合はツボがずれていたり、灸が適切ではないことがあるので止めた方が良いと思います。
  6. 申し訳ございませんが、実際に試したことによる問題等については一切責任を負えません。自己責任の上でお願いします。また、古い時代の資料ですので不明確な点も多いですが、ご質問があればわかる範囲で対応させていただきますのでご連絡を頂ければ幸いです。

4、『名家灸選』「喘急、咳嗽」の項の(超)意訳

※と()は補足

呼吸がゼイゼイとしたり咳がでる症状についての灸

〇ゴロゴロゼイゼイとする者の灸 〔試して効あり〕
 (立った状態で)まず縄を腋の下のしわから乳首までの長さで切る。
 それをちょうど半分で切って、腋の下のしわから垂直に下したところに灸をする。
 左右両側2穴である。

〇ゴロゴロゼイゼイと呼吸が荒くなる発作を起こす者の灸 〔『鍼灸五蘊抄』という書物より〕
 まず病人を足を揃えて立たせて、足の回りを縄で測る。
 これを半分に折り、折り目を喉仏に当てて縄の先を背中の方へ垂らし、縄の先端が合うところに仮点を付ける。
 その点から左右に1寸半のところ、また、右のところから下に3寸のところ、この3点に灸する。
 〔3寸は口の横の長さを用いる。1寸半はその半分を使う〕

〇痰があってゼイゼイとして、横になると苦しむ者の灸 〔ある老医から伝え聞いた話〕
 七兪(※) 〔左右に2穴、(至陽穴から)横に1寸半のところ〕
 九兪(※) 〔左右に1寸半の2穴、骨の上1穴、合わせて3穴〕
 第11節(胸椎棘突起)の下の間(くぼみ)に1穴(脊中穴という)
 この6穴に毎月灸をする。据える回数は多いほど良く、病気を根治させる。

※七兪(ななゆ)-第7胸椎棘突起あたり(至陽穴という) ※九兪(きゅうゆ)-第9胸椎棘突起あたり(筋縮穴という)

〇胸が張るようでゼイゼイと息苦しく横になることができない者の灸 〔『赤水玄珠』より〕
 左を下にして横になれない者は右足の三陰交(※)に灸をする。
 右を下にして横になれない者は左足の三陰交に灸をすると立ちどころに良くなる。

※三陰交(さんいんこう)-内くるぶしの上へ3寸あたり、脛骨沿いにある。

〇普段、ゼイゼイする癖のある者の灸 〔紀州、児玉さんの話〕
 縄を使って膝の裏から足(の裏をめぐって)親指の先までの寸法を取る。
 喉仏に(縄の中央部分を当て)背中の方へ垂らし、縄の先が合わさるところに仮点を付け、同身寸(※)で右に1寸のところがツボである。  △思うに、喘息の起こる前、また今起こるというとき、ここに30回灸をするととても効果がある。

※同身寸(どうしんすん)-自分の身体の一部を使って一寸の長さを決めること。手の指の一つ目、二つ目の関節(近位、遠位指節間関節)を曲げてできるシワの距離を一寸としたり、親指の一番太いところ(母指指節間関節)の横幅を一寸にしたりする。

〇喘息のように息苦しく、のぼせが強く、もう死んでしまうと言う者の灸 〔『救急易方』から〕
 膻中(※)〔灸を五回〕 天突(※)〔灸を三回〕
 △おそよこの2穴はゼイゼイする者を救い、効かない者はない。治った経験はすでに6、7人に及ぶ。『資生経』には「急性熱症の咳がひどいときは天突に灸をすれば治る」とある。

※膻中(だんちゅう)-両乳首のラインで、胸骨の上にあるツボ。
※天突(てんとつ)-胸骨柄の上の際で喉のくぼんでいるところ。

〇ゼイゼイする者の妙なる灸 〔古い話〕
 まず縄を使って大椎(※)から両の乳首の上までを測り切り取る。
 その縄の端から自分の口の横の長さの分を切断する。
 余った縄を喉仏から背中へ回して下に垂らし、その先端が届く(背)骨のすぐ際、男は左側、女は右側が穴である。

※大椎(だいつい)-第2胸椎棘突起(うつむいて一番出っ張る骨)あたりにある穴。

〇咳、のぼせ、冷たい痰が多い者の灸 〔試して効あり〕
 第3胸椎棘突起の外側1寸半にある肺兪穴に50壮灸、また、乳輪の下際にある乳根穴に100壮灸をする。

5、『名家灸選』「喘急、咳嗽」の項の原文

※と()は補足

喘急咳嗽

〇治痰喘(※)甚者法〔試効〕
 先以縄子従腋下前紋(※)至乳中(※)断之還而中断又直前紋直裏下以尽処点之各二穴

 ※痰喘(たんぜん)-『漢方』痰濁が肺に壅(ふさ)がることによる喘息のこと。痰湿が肺に蘊し、気道を阻塞して発する。症状は呼吸急促・喘息に声がある・咳嗽・喀痰が粘膩でさっぱりしない・胸中満悶など。
※腋下前紋-極泉という経穴。
※乳中-乳首の位置にある経穴名。

〇治痰喘気急(※)時発者法〔五蘊抄(※)〕
 先令患人均并両足以縄周遶四辺還中折直結喉垂下両背合両頭尽処仮点従其点各開一寸半又従右辺点下三寸一点凡三穴〔三寸用口横寸也寸半中折也〕

※気急(ききゅう)-『漢方』呼吸促迫のこと。
※五蘊抄(ごうんしょう)-『鍼灸五蘊抄』という江戸中期に書かれた書物の名前。

〇治痰飲(※)喘急発則不得臥者法〔一老医伝〕
 七兪〔左右二穴各開寸半〕九兪〔左右開寸半二穴骨上一穴合三穴〕十一椎節下間一穴
 右六穴逐月(※)灸之壮数(※)尤多為佳抜病根

※痰飲(たんいん)-『漢方』古くは澹飲、淡飲ともいわれた。体内の輸化されない過剰の水液がある部位に停留して発生する疾病をいい、稠濁(ちょうだく)のものを痰、清稀のものを飲と区別している。
※逐月―月ごとの意。
※壮数(そうすう)-灸の回数のこと。

〇治肺脹(※)喘而不得横臥者法〔赤水(※)〕
 左不得臥者灸右足三陰交(※)右不得臥者灸左足三陰交則立愈

※肺脹喘(はいちょうぜん)-上気煩躁して、目が脱状のようになるもの。肺脹し気が宣暢(せんちょう:のびのびとすること)できずに壅(ふさ)がり喘することによる。
※肺脹(はいちょう)-『漢方』①喘咳の類に属するもの。邪が肺に入り、肺気が脹満しておこる。症状は胸悶・咳嗽気喘・欠盆中痛がみられる。②脹病に属するもの。脹病に属するもの。脹病で虚満咳喘をあらわすものをいう。
※赤水(せきすい)-『赤水玄珠(セキスイゲンシュ)』か。中国明時代の孫一奎の撰(京都大学貴重資料デジタルアーカイブより https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00003785)。第八巻「咳嗽門」の「肺脹」の項にあり。「肺脹而嗽或左或右不得眠此痰挟瘀血礙気而病宜養血以流動乎気降火疎肝以清痰四物加桃仁訶子青皮竹瀝之類 一法灸之妙左不得眠者灸右足三陰交右不得眠者灸左足立安」

〇治平素有喘癖者法〔紀州児玉氏(※)伝〕
 以縄子従膕中(※)横紋至足大指端取寸法以其寸直結喉垂下脊骨尽処仮点以同身寸右開一寸一穴也
 △按喘未発時又喘将発時灸之三十壮而極験

※児玉氏-不明。
※膕中(こくちゅう)-膝の裏あたり。いわゆる委中のツボ。

〇治気喘(※)上逆(※)欲死者法〔救急易方(※)〕
 痰膻中〔五壮〕 天突〔三壮〕
 △凡此二穴救急喘無不効者予経験已及六七人又資生云傷寒(※)咳甚灸天突即差(※)

※気喘(きぜん)-『漢方』①各種の呼吸困難症候の通称。②精神的素因による喘をいう。多くは七情により傷られ、気機が鬱結しておこる。症状は呼吸急促して痰声なく、甚だしければ鼻を広げ息をする。あるいは怒り、イライラ、驚き悩むなどを伴うことがある。
※上逆(じょうぎゃく)-上衝発作のこと。気が下部より上部に衝き上り不快を感ずる状態をさす。気が小腹より心に上衝するの類をいう。
※救急易方(きゅうきゅうえきほう)-中国明代の医学書か。内容未確認。
※資生(しせい)-『鍼灸資生経』中国宋代の医書。
※傷寒(しょうかん)-『漢方』①広義の傷寒をさす。多種の外感熱病の総称である。②狭義の傷寒をさす。寒邪を外に受け、感じてすぐに発する病変をいう。
※差(い)ゆ-癒えるの意。

〇喘急妙灸〔古伝〕
 先以縄子直大椎以其両端至両乳上断之以其縄子端取患人口横寸断去之直其余寸於結喉垂下脊骨点其尽処骨際一穴男左女右

〇治咳嗽上気多冷痰者法〔試効〕
 灸肺兪五十壮又灸両乳下黒白肉際(※)各百壮

※黒白肉の際-『名家灸選釈義』によると乳輪の際である乳根穴。