鍼道発秘     葦原検校撰

それ鍼のみちは黄帝岐伯の論よりはじまり後世その法を伝ふといえども其妙をしる者少し、鍼術といへば、りうづぎは迄さすをのみ上手と心得、あるひはながく太めなるはりにて水銀などをぬりてむたいにおしくだし筋骨(すじほね)をやぶり病人そのいたみになんぎするを是は邪気にあたりしなぞといひまぎらしおくは、まことにむざんなる事なり、予少しくはりのみちの妙あることをわきまへ聊(いささ)か愚言を発す、凡そはりに九つの名あり一に?鍼、二に員鍼、三に?鍼、四に鋒鍼(是三稜鍼なり)、五に鈹鍼、六に員利鍼、七に毫鍼、八に長鍼、九に大鍼なり、我もちゆるところは毫鍼員利鍼三稜鍼比三ツなり、毫鍼は長さ一寸五分尖て蚊虻のくちばしのごとし是今の鍼なり、員利鍼は長さ一寸六分そのかたち?(うしのを)のごとく少し太めなり、三稜しんは刃さき三角なり今世に行ふところは毫鍼のみにて員利しんの術をしらずによつてここに仕法をわかつ、先病人に臨んで脉をうかがひ、はらを按じ左の手をもつて其穴所をさだめ、はりくだともに右の手にて是にあて、はじきてくだをさり、しづかに其はりをくだす、左のおし手は強からずよはからず呼吸にしたがひ、はりぬくまては少もうごかぬものなり、すでにはり二三分ほどくだらば一分ほどひきあげ一寸もくだらば五分も引あげ、はりさきへ気のかかるをかんかへ、あるひはあさくして是をとどめ微にして是をうかべおすがごとく受るがごとし、其はらなりうごくをまつてはりをさる、又はやはらかにはりをさし入是にしたがふが如く蚊などの止るがごとく至て其術をかろく柔和にして久しく是をとどめ養ふて気をととのふ是毫しんの法なり
員利鍼はおし手をかろく其穴所にしたがひて深くさし入ては引上、又さして入てはひき上、はりぐちゆるめ左右前後はりを自在にす、あるひは深く、あるひはあさく、あるひははやく、或はおそく、かくのごとくするときは其気のいたる事動脉のかたちのことく、又釣はりへ魚のかかるかごとく、心をもつて是をうかがひ遠くめぐらす時は、たとへば腰へ立るはり手足へひびく其かたちいなずまのごとく花火のごとし、又久しくとどめて進退するときは其気の往来する事炮玉のはつするがごとし、其ひびき惣身へ通ず、其術誠に妙なり、かるがゆえに邪を制し精をととのふること自在を得べし是員利鍼の法なり
三稜鍼は血絡とて悪血とどこふり、いたみ、あるひは痺れをなす、是をさして其血を出す、其やまひたち所に愈、又いづれの所にても血毒あつまりすぢのごときものあらば是をさして其血をもらす其効ある事まことにすみやかなり、是いにしへ扁鵲が?の太子の難病を治せしも比三稜鍼の法なりとつたへたり

病症弁

放心 乱心の事なり
先肩脊のうちをおほくさして気をはらし、後毫鍼をもって気海を久しくとどめ陰陵泉にひくべし

活のはり
先員利鍼にて痞根陽陵泉をつよくさすべし、又百会より少し血をもらすべし、かならず活るなり

中風の症
中風は血気ふそく、風寒暑湿にやふられて中風する也、筋引つりいたみ、あるひはなへ、すくみ、しびれなどし、あるひは目ゆがみなどするたぐひなり、先員利鍼にて手足を多くさし痞根章門の辺穴所にかかはらず、かた、せなか、あさく、おほくさすべし、実なるものは三稜鍼にて百会の辺あるひは手足ゆびの間、かろく血を出すべし、虚なるものは手足の穴所におほく灸をすべし、必ず療治早ければ治するなり

大熱
すべていづれの所にても其はりをはやくさし、又はやくぬきてはり口をとぢざるなり、肩脊中項の辺を穴所にかかはらずおほくさし、かしらのうち、あるひは手足ゆびのあひだ、筋脉にあたらぬやうに多くさすべし、熱気すなはち解すべし

大寒 ひゆるしやうなり
是は其はりをふかくして久しくとどむへし、かた脊中のこはばるところをおほくさして其気をめぐらし、後手足をえんりしんにてつよくさすべし、たち所にあたたまるなり

胸痛 むねのいたみ
是は痞根章門の辺を深くさして其はりをねり、又手足へ気を引べしあるひは、かた、せなか、うなじをかろくさすへし、かならずいゆるなり

腹痛 はらのいたみ
先横はらを多くさすべし、あるひは手足にひき後毫鍼をもつて腹部をさすべし、又かたせなかをうかがひ、其凝る所をさせばかならず治するなり

脇腋痛 わきのしたのいたみ
先手にひき後よこ腹足にひくべし、若治せずば毫鍼をもつて其いたむ所を多くさすべし

腫物 はれもののはり
すべて腫物には委中尺澤より血をとるべし、或は百会より血を出すべし、又こりある所を見て員利鍼にて多くさして其気をもらせば自然になほるなり

口中歯痛
員利鍼にて頬の内を多くさして血をもらすべし、其いたみ立所にいゆるあるひは手足にひくもよし

咽喉痛 附たりこうひ
是は先足にひきて後手の合谷をさすへし、あるひは大椎の辺を二三ヶ所さしのち豪針にて天突を刺べし、治する事妙なり又は手の大指より血を出すもよし

疝気
先徹腹章門京門をさすべし、ひきつり、いたみ、つよきには環跳の辺をふかく多くさすへし、或は腰眼委中心下にこはるものは、かた項両の手に引くべし、いゆる事妙なり

痢病 おなじく泄瀉 はらのくだる事なり
是は天枢気海中?をさすべし、おもくしてしぶるものは痞根陰陵泉をとる、又肩をさして妙あり

癪聚
腹にかたまりありていたみつよきは腹部をさすべからず、先両のよこはらをふかくさし次に足にひき、のち脊をふかくさすべし、ゆるみてのち気海ならびに塊(かたまり)のうへをさす、もつとも豪針をもつてすへし、手にしたかつてとくるがごとく自然と治するなり

便毒
よこねはれいたむにはまづ引針をすべし志室環跳曲泉に妙あり、あるひは横骨気海をさしてかならず効あり

頭痛
先両の手にひき後に百会の辺をさすべし、痛ところ少し血を出すによろし、また項の左右頭に通ずるところをさす脊の七九に口伝あり

乳痛
男女ともに乳はれいたむには膏肓章門をさすべし、又ちぶさのまはりを毫鍼をもつていく所もさすべし、のちに両の手にひくべし

霍乱
はやく吐、はやく下るをよしとす、痞根章門足にひくべし、いたみつよきは膏肓のへんならびに脊の七九あたりをふかくさしてめくらすべし、吐するには塩湯をなまぬるにして飲すべし、また中?鳩尾の辺にてはり先うへにむけて気をおすべし、すぐに吐なり、又手足強くひゆるには灸をすべし、吐かざるものは承山をさすとりよう口伝あり、下利していゆべし

小便
小便しげきには気海石門をふかくさしてとどむべし、又しぶり通ぜざるには百会肩井項の左右を刺て気をもらすべし、陰陵泉に引事妙なり

大便
若元気おとろへ大便久しく下らば気海をとるべし、又徹腹を深くさして止るに妙あり大便けつせば大腸の兪并に承山をさして効あり

淋病
腎膀胱の積熱なり気海中極をさすへし、又水道陰包大白にさす妙なり、淋病多くは黴毒より発す、委中并に足のゆびの間をさして血をだすべし

癲癇
先肩脊よこはらをさすべし、若絶えいらは手足に引、項の左右を多くさすべし、下よりおこるものはいえがたし、頭より発るものはいえやすし、百会天柱血を出すによろし

食後の飢
食事してじきにうえることあり、これは胃にしつねつあるゆえか、又は虫のつきのぼる故なり、不容中?左の大横をふかくさすべし、たちまちなほるなり

血留
すべて血出てやまざるには手の尺澤をさすべし、はな血、吐血などにもまた足の三陽をさしてたち所にとまる、もつともえんり針にてはり先へ気をととむるによろし

水におぼれたるもののはり
水におぼれ、絶えいらば鳩尾をさして水をはかすべし、百会手足を多くさすべし、又わらをたきて其灰の中へ面ばかり出しうづめおくべし其効あることすくなからざるなり

青筋 俗にいうはやうちかたという
是は、にはかに、あく血せめのぼりて一時のうちに死するなり、先三稜鍼にて百会并に両の眉のまん中、項の左右、又肩脊中のうちを穴所にかかはらずさして血をもらすべし、又員利鍼手足に引べし、徹腹章門気海をさすべし

水腫
水気にてはれる事なり、是は横腹小腹の辺両の足に水ひきのはりをさして多く水をもらすべし、あるひは百会肩井かたをさして小べんを通じさすべし、また気海に毫針をもつておぎなふべし

瘧疾
おこりは邪気その所をさらずゆえに営衛のながれをとどむ、かならず時をもつて大熱大寒をなす血気強き人は毎日おこる、よはき人は一日間あるひは二日三日間におこる、天柱大椎合谷陽陵泉を員利鍼にてつよくさすべし、百会より三稜針にて少しく、ちをもらすによろし、痞根を深くさすべしおこりの針是を用る時は寒気のおこらぬ半時ばかりまへに、先あつきかゆの湯をのませ、多くころもおほひて針を用ゆ、もつとも陽陵泉をさしていなづまのごときものを四五たびめぐらして是をあたたむるときはかならず寒さなくして熱をなす、すなはちいゆるなり、是をりやうぢする時、はやからずおそからず、さむ気きたらぬまへに、ほどよくほどこすべし、其効すみやかなり

万病
いづれの所にてもいたむ所あらば是をおし、其いたむ上下をさすべし、又すぢいたむにも員利鍼にていたむまはりをさしてはぬき、又さしてはぬき、たびたびする時はその気もれ散じてすなはち、いゆるなり

婦人の針
はらめるときは合谷三陰交をいむべし石門をおほくさせばはらむことなし、余は男におなじ

難産の針
もし産することおそく、なんさんとならば子安の針を用ゆべし、痞根章門京門を深くさすべし又腎兪大腸兪陰陵泉三陰交にひくべし、合谷つよくさすべし、後産おりさるには巨闕大横水道をさすべし、又徹腹を深くさしておりる事妙なり

小児の針
小児は虚弱なるがゆえに邪もうけやすく又治しやすし、何の病にても小児には毫鍼をもちゆべし、疾く刺して、速くとるべし、又症によって百会よりかろく血を出す事もよろし

塊癖 小児の病
癖積にていたみさしこむ事あらば、まづ横腹あぜの穴をとるべし、又おしてみて積手にあたるところを毫鍼にてかろくさすべし又は手足にひくべし

痘疹 はうさうはしかのはり
はうさう、はしかとも、ここかしこに少しつつ出たるときにあく血を出すべし、三稜鍼にて委中をさすべし、比仕法あらきやうなれども、はうさう、はしかともに出かねたるには、はなはだ妙なり、また百会をかろくさして血をもらすのもよし

五疳
ごかんともに脾胃の虚なり、章門痞根手足に引べし、百会をさして気をもらすべし

吐乳 小児のやまひ
小児乳をはかば不容中?章門痞根をさすべし、あるひは百会手足に引妙なり

小児雀目
小児夕方より目のみえぬをとりめという、百会合谷天柱陽陵泉をさすべし

眼目の病
目は精気のそそぐ所なり故に気ふさがる時は目の気うすくなるなり、或は結毒によっておこるもあり、天柱睛明肺兪膏肓をさすべし、手足に多く引によろし、どくあるものは百会より少しづつちをもらすによろし

耳の病
すべてみみ聞こえざるは腎気の不足あるひは、しつどくの生ずるゆえなり、風池風府肩を多くさすべし、あるひは手足につよくひくによろし、又百会よりちをもらすによろし

痰症
痰には肩脊をゆるめ次に七九十一をふかくさして気をめぐらすべし又手足につよくひくべし或はよこ腹をふかくさしてとどむるに妙あり

脚気
かつきは男は腎虚、婦人は血海の虚によつておこる、足、はれいたみ、おもく、もしはらに入る時は大事なり、章門京門環跳をふかくさすべし又足の三陽を多くさすべし血絡あらば三稜針にてちを出すべし

肝症
すべて気のとどこふりより生ず、あるひは熱しあるひは寒し手足しびれ筋引つり其はなはたしきに至つては気せまつてものいふ事あたはぬなり項肩脊のうちを多くさして気をもらし後痞根章門を深くさし手足につよくひくべしみな員利鍼をもつてすべし中?梁門気海毫鍼にて気を修べし

要穴手にては
肩? 曲池 三里 合谷 肩貞 両小海 両関 五指の間 列缺 尺澤 曲澤 天井 等をとる又あぜの穴をとるべし

おなじく足にては
三里 上廉 下廉 豊隆 陽陵泉 陽輔 委中 承山 陰陵泉 三陰交 曲泉 蠡溝 太沖 ふじ 湧泉 伏兎 陰包 公孫 五指のあいだをとるべし、又症にしたがい、あぜの穴をさすべし、あぜの穴とは是をおすに病人ああよきここちぞといふところ、これをあぜの穴といふなり

余論
肩胸咽のまはりをさすにはこころえあり、はりをくだして針さきへもののあたらぬやうにさすへし、若あたる事あらばはやくとりて気をもらすべし
こしより以上をさして人悶絶せば足の三陽をさし、のちよこはらをさすべし
こしより以下をさして人悶絶せば肩項のまはりをさし、後徹腹をふかくさすべし
頭をさして人悶せばまづ手にとりて後足にとるべし
むねはらをさして人悶せば肩脊のうちをふかくさしてのち足にとるべし
すべて腹はいつれの所にてもかたまり、あるひはすぢこはばりたる所をむたいにはりを下す事なかれ、まづ手足よこはらなどをさし、のち腹部をささば毫鍼をもつてあさくかろくさすべし、また其所をさけて其虚をうつという事あり、故に病さかんならばまづ遠き所よりひき、或は其脇をさすべし、病左にあらば右を多くさすべし又動脉へ毫針をかろくさしておさむる仕法あり
およそはりは万病一邪とこころえべし何のやまひにてもわが手のうちの術さへいたらば、一兪をさして愈ゆべし別の法を用ゆる事なし
又禁穴とて他流にては針を用ひざる穴所あれとも我法には別に禁穴なし、邪のみつる所其気かならず虚す、故に邪気ある時は何れの所にも針を用ゆ、病なき時はいづれの穴にもはりを禁す
又世にいふはりをさしてぬけざる事、あるひは、はりのあとひきつり、いたみなどする事あるは、是手のうちの熟せざるなり、我法ははりさきへ気をかけ、又はづす事自在なればさやうのあやまちかつてなし
またはりを用ゆるに、肥たるとやせたると、皮膚の強きもの、又肉のやはらかなるもの、あるひは実したるもの、あるひははりをきらふもの、又はりをこのむものとをかんがへてほどこすべし、一がいにこころえべからず
又脉浮数とて、みやくうかみはやきものには其はりをあさくしてはやくすべし
又脉沈遅とて、みやくのしづみおそきものには其針をふかくして久しくとどむべきなり
毫鍼の術は大補としるべし
員利針は補あり瀉ありとしるべし
三稜針は大瀉のはりとしるべし
また症によって折針する事あり、是我法の口伝也
およそはりをもちゆるものは、まづわが心をさだめ、つぎに病人のこころをとるべし、すでにはりをさすとき、たとへあたりにいかやうのことありともこれに気をうごかす事なく、ただ一すぢにはりを守り、つつしんで療治をなさば万病いえずといふ事なし、妙なるかな鍼のみち、その術まことに微にして、そのあぢはひ、きはまりなし、予がふぜいにしてことごとくその意を尽す事あたはざれども門下童蒙の為にすこしく是をのふるものなり
また針をとるにかならず心得あり、医の道は仁の術とあれば、とかく柔和にして、じひなさけを専らとすべし、療治をなして多く謝礼をうけやうの、なにほどものをもらふべきなどと、つたなき心をもつべからず、良医は国を医すとあれば、たつとき、いやしきのわけへだてなく病苦にせまり、なんぎするものあれば、りやうぢをほどこし、すくひたすけてその人をして家業をつとめ、身体をこころよくなさしむるはすなわち国をおさむるにあたるなり、とにも斯にもおのれが心をうる事を修行すべし、こころだに得る時はもの事自在なるべし、古人も心に得て手に応ずるとはいへるなり、たとへば海を丘になし山を平地に為もみな心なり、又いかやうなるかたき石水晶の類なりとも丸くも角にもなすは人の心なり、又天ぢくのほとけの法もろこしの聖人のをしへ
我朝の神道もみな人の心よりいできし者なり、されば心はすなはち神と神とのもとの主たり、又心より外に別の法なしとも、または是をはなてばこがうにいたり、是をまけば退て密にかくるともいへり、これみな心の法なり、されば心にうる事を気をながくくふうすべし、歌に
  仏にも神にも人はなるものを
    などあたにもつこころなるらむ
  まよひにし心ひとつのひらくれは
    知恵もなさけも有あけのつき
  なせばなるなさねばならず成物を
    ならぬはおのがなさぬなりけり
能々此うたのこころをかんかへて、若心を得るときはすなはち神も仏も聖人もわれも同体なるべし、かるがゆえに心仏及衆生是の三無差別とはいへり、これ心は天地のたからなり、古人も乾坤の間宇宙の内中有一宝秘在形山といふなればつつしんで此一宝の妙法をたもつべし

鍼道発秘終