杉山流三部書にみる病症名

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鍼灸で健康保険となるのは「(慢性的な)疼痛を主訴とする疾病」と決められています。 病名では神経痛、頚腕症候群、五十肩、腰痛症、リウマチ、頚椎捻挫後遺症などです。 これを見て「少ないな」と思う鍼灸師は多いのではないでしょうか。 まあ自由診療であればこの限りではないのですが。

ご存じのように古代中国で発明された鍼灸は既に平安時代には日本に伝わっていました(『医心方』丹波康頼著984 年)。 江戸時代には中国医文献が盛んに輸入され、湯液(漢方)とともによく研究されたようです。 その時代に活躍した人物で、鍼灸師なら誰でも知っていると思われる人に杉山和一検校という方がいらっしゃいます。 そして『杉山流三部書』なる書を著したと言われています。 その書には施術における基礎概念や治療技術、経穴(ツボ)などが記載されていて、更に病証とそれに用いるべき経穴が載っています。

当然、300年以上も前の話ですので、読む場合には注意が必要だと思います。 いくつか挙げてみます。

しかしながら、当時どんな病症に対して鍼灸施術が行われていたか、という点では貴重な内容だと思います。 さて、どんな病症が載っているでしょうか。

東洋医学用語を知る上での参考図書として以下のものを用います。

『漢方』-『漢方用語大辞典』燎原

ただし、これ自体の解説も難しいものですので、より深く知識を深めたい場合は他の古典を見る必要があります。 不明な点や間違いも多々あると思いますのでお気づきのことがありましたらご教授ください。


索引

文中ではある程度のまとまりがあるとはいえ、病状が並んでいるだけなので分かりにくいと思います。 そこでちょっと雑ですが、病状毎に似たものをまとめてみました。 これを索引として、本文の検索をしていただければ少しは辿りやすいと思います。

〇麻痺
中風、人事を省みざる言葉には風邪の意味もありますが、文中では卒中を示し、当然人事不省になったり、片麻痺や言語障害、口や眼が斜めに歪むという症状です。
脚気下肢の痛み、軟弱化、引き攣れ、腫れ、萎縮、発熱などが起こる病で、病状が進むと嘔吐不食、動悸、喘、言語錯乱などの重篤なものとなります。腫れるものを湿脚気、腫れないものを乾脚気と呼ぶようです。
半身遂(かな)はざる中風における偏枯と同じです。
口眼喎斜中風の症状です。
〇風邪様症状・感染症
傷寒、傷寒頭疼身熱急性の熱病を指します。いわゆる現代の風邪には限定せず、マラリア、チフス、スペイン風邪などの悪性インフルエンザなどの感染症を含むと考えられています。
痎瘧、瘧、久瘧発症時間に一定の間隔がある(間歇性の)悪寒戦慄、高熱、汗を特徴とする症状をさします。マラリアのような症状を指すようです。
咳嗽咳がひどい場合です。痰がある場合とない場合があります。
喘急、喘息喘息のことです。
〇嘔吐・しゃっくり
嘔吐、気逆吐くことですが、物は出ない場合も含まれます。
噦逆しゃっくりです。
吐血、血症口から血を出すことです。
霍乱、乾霍乱気分が悪く吐き下しをする症状で、食あたりや細菌性も含みます。
〇下痢便秘
痢病、泄瀉、瀉痢、脾泄、胃泄、大腸泄下痢です。赤痢や白痢、水様性のものを指すようです。
秘結便秘のことです。
下血、便血大便で血が下ることです。
脱肛肛門からの脱腸です。
字のごとしです。
〇全身症状、その他
痰飲、寒痰、熱痰人の体内を巡っている気血水の内、水が過剰となった状態で、さまざまな症状を現すと考えられています。目が眩む、耳鳴り、酸いあくび、咽が詰まるが吐いても出ず飲んでも降りない、手足のむくみ、歯が浮く、みぞおちが冷える、不思議な夢を見る、腕や足が萎える、腰の痛み、発疹、項に塊ができる、精神障害、中風、脚気などなど、これらの背景に痰飲が影響していることがあるようです。
癆瘵、虚癆、虚癆浮腫身体が衰弱し、体重が落ち、髪が抜け、寝汗をかき、小便が白くなるといった病症です。
黄疸顔色と皮膚が黄色になる病です。
消渇一般に多飲・多食・多尿となる病証です。
水腫浮腫です。
陰症癆瘵に状態は似ていますが、こちらは基礎疾患によらず身体機能が衰えた状態です。加齢によるものも含みます。
舌捲き嚢縮まる、屍鬼に犯され暴厥して人事を省みず恐らく人事不省で死期が近い状態と思われます。
癱瘓四肢が効かなくなる症状で原因が痰に由来するものです。
気短息ぎれのことです。
〇頭痛
頭痛これは現代と同じです。風邪による一時的な頭痛から、頭の中まで強く痛む真頭痛という発すれば死するような重症のものも含みます。
〇心痛
心痛心といっても胃部の強い痛みです。発すれば死するものもあります。
〇運動器系の痛み
腰痛現代と同じです。
手痛んで挙らざる字のごとしです。
転筋攣ることです。
〇泌尿器
淋病、尿血、五淋、小便利せざる現代では性病ですが、昔は小便が出にくく雫のようになるものを淋病と呼んでいました。血が出るものや膏のような小便が出るものも含まれます。
赤白濁小便が赤色を帯びたり、白く混濁する病です。膏や膿のようになる場合もあるようです。
遺尿覚えなく小便が出てしまう病症です。
遺精覚えなく精液が出てしまうものです。夢精も含みます。
小便禁せざる字のごとしです。
〇胃腸
翻胃体力が衰えることで胃腸が非常に弱まり、朝に食すれば夕に吐き、優に食すと朝に吐く病症です。
脹満、腹脹胃腸機能が弱り、腹が張る病症です。
積聚、積聚痞塊、息奔、伏梁、痞気、肥気、奔豚、疝気、癥瘕腹内に大きい塊ができる病症です。場所は臍の上や腋の下、心下などがあります。一般的に塊の境界が明確で、痛みや脹れが強く、固定して移動しないものを積といい、境界が不明瞭で痛みに決まった場所がないものを聚というようです。
腹痛腹の痛みです。
諸虫門寄生虫です。
気塊仮性腫塊。(『漢方医語辞典』)
例えば飲食物が塞がって大便が不通となるような、通じるべきところが塞がってしまう症状のことです。
〇汗
自汗、盗汗動かなくても汗が出てくるのが自汗です。盗汗は寝汗のことです。
汗出でざる無汗と呼ばれる症状で主に風邪の一症状として現れます。
〇精神症状
癲癇発作性の精神症状です。
上気吐く息が多く、吸う息が少なくなってしまい、息がせわしなくなる病症です。
大息太息のことで、頻繁にためいきをつくことです。
悲しむ頻繁に悲観することと思われます。
〇口腔
口中門口に関する病です。唇の傷、瘡や、舌の強ばり、虫歯、喉の腫れ、顎の痛みなどです。
口喎(つぐ)んで開かざる何かしらの原因で口が開かない状態です。
瘖瘂声が出ない状態です。
歯牙痛む字のごとしです。
喉痺喉がしびれなどで上手く働かないことと思われます。
〇眼
眼目眼に関する病です。目が開きづらい、爛れて涙が出る、腫脹、さかさまつげなどです。
眼目頭痛字のごとしです。
〇耳
耳門耳に関する病です。耳が遠い、腫れ痛み、膿が出る、耳鳴りなどです。
眩暈めまいです。
耳聾耳が聞こえない症状です。
〇鼻
衂血鼻血です。
鼻塞つて香臭を聞かざる字のごとしです。
〇婦人科
婦人門生理が整えば万病は生まれず、万病が生まれなければ子を孕むと考えられていました。生理痛、周期のずれ、経穴が少ない、塊があるなどの症状があります。他、産前の難産について、胞衣の降りようなどがあります。
産後産後の下痢、乳の強ばりや痛み、生理の不調、産後の腹痛、妊娠しにくい場合などがあります。
血結ぼれ月事調はざる生理不順です。
血崩子宮出血の甚だしいものです。
痢帯の赤白不明。下痢と不正出血が重なることでしょうか。
孕むこと成らざる不妊です。
産難横生字のごとしです。
胞衣下りざる後産がスムーズにゆかない場合と思われます。
死胎下す字のごとしです。
胎を取らんと欲せば堕胎、もしくは難産と思われます。
〇小児科
急驚風小児の急な発熱、昏迷、角弓反張、歯を食いしばる、口から泡を出すなどの病症です。
慢驚風小児のひきつけ、嘔吐下痢、手足の冷えと鼻や息の熱さなどを現す病症です。
疳、疳眼小児の嘔吐下痢などを現す病症です。
癖疾脇腹に塊が出来るというものです。
咳嗽咳です。
嘔吐乳を呑み過ぎて嘔吐することです。
泄瀉下痢です。
夜啼客忤夜泣きと、物に驚いて顔が青くなり、沫を吐き、喘鳴、腹痛、四肢のひきつれを現す病症です。
痘瘡天然痘のことです。
臍風新生児の破傷風のことのようです。
霍乱吐き下しです。
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本文

※はコメント

杉山流三部書 杉山検校遺徳顕彰会 『療治の大概集』に録する病症(病症のみ抜粋)

〇中風(※)の事

一中風の症四つあり一には偏枯(※)とて偏身手足の軟(なゆ)るなり。二つには風痱(※)とて身に痛も無して手足の遂(かな)はぬなり。三には風懿(※)とて人をも見知ぬなり。四には風痺(※)とて身の痺(しび)るるなり。中風の症数多ありと雖ども略して少しづつ誌(しる)す者なり。下は皆斯(かく)の如し、百会、肩井、補、曲池、瀉、三里、瀉、三陰交、風市、絶骨、右七所の穴と云う、左を中風せば右に鍼を刺し右を中風せば左に鍼を刺べし。

※中風(ちゅうふう)-『漢方』①卒中ともいう。突然昏倒し、人事不省となり、あるいは突然に口眼喎斜し、半身不随となり、言語不利となる病証をさす。②外感風邪の病証をさす。
※偏枯(へんこ)-『漢方』偏風ともいう。半身不遂(随)のこと。
※風痱(ふうひ)-『漢方』痱ともいう。中風の後にあらわれる偏枯である。身体に痛みはなく、四肢は収まらず、精神に異常のないものである。
※風懿(ふうい)-『漢方』風イ(病だれに意)ともいう。突然に人事不省となり、舌が強ばって話すことができず、喉に閉塞感があって、甚だしい場合は、ああ、ああ、という声しか出ないもの。
※風痺(ふうひ)-『漢方』痺証の一種。風寒温の邪が肢節・経絡を侵襲し、その中でも特に風邪の甚だしい痺証のこと。また、周痺・行痺・走注ともいう。一説には、風痺は、痛風であるともいわれる。症状は、肢節が疼痛し、痛みが遊走性である。

〇傷寒(※)

一冬強く寒気に中(あた)りて疾(やむ)を傷寒と云(い)ひ、寒気裏に蔵(かく)れて春暖かに成て発(おこ)るを温病(※)と云ひ、夏に成て発るを熱病(※)と云ふ。何れも同症なり。大きに汗し大きに下すを善とす。上脘補、中脘補、三里手足共に三の兪(ゆ)浅く刺す、脇髎(※)は発散して日数立(たつ)時は能(よ)きものなり。

※傷寒(しょうかん)-『漢方』①広義の傷寒をさす。多種の外感熱病の総称である。②狭義の傷寒をさす。寒邪を外に受け、感じてすぐに発する病変をいう。
※温病(おんびょう)-『漢方』四季にかかわらず温邪を感受しておこる多くの急性熱病の総称である。昔は熱病の多くを温病としていたが、熱が比較的軽いのを温とし、重いのを熱とした。ただし実際的には一致するところが多く、温と熱とは往々にして一緒に用いられ、また温熱病と総称される。その臨床上の特徴は、発病が急激で、初期に多く熱象が盛んにみられ、容易に燥と化し陰を傷る。この種類は多く、風温、春温、湿温、暑温、冬温、温毒などがある。
※熱病(ねつびょう)-『漢方』①一般にはすべての外感により引きおこされる熱性病をさす。広義の傷寒に同じ。②傷寒病五類疾患の一つ。③夏季に伏気が発する暑病をさす。
※脇髎(けんりょう)-章門のこと。

〇痎瘧(※)

一内経(だいけい)に曰く夏暑気に中れば秋必ず痎瘧すとあり、先(まず)寒くして後ち熱気さすを寒瘧と云ひ、又先熱して後ち寒きを温瘧と云ひ、唯熱気さして寒からざるを癉瘧と云ふ。一日に一度発るは愈(いえ)易し、二日三日に一度発るは瘥(いえ)難し、長延(ながびい)て瘥ざれば後ち癆瘵(※)となるものなり。中脘、脇髎寒きに善し、脾の兪、肝の兪、大椎の兪、先づ鍼刺して後に灸す。

※痎瘧(がいぎゃく)-『漢方』①瘧疾の総称。②二日に一度発する瘧。③老瘧、久瘧のこと。④瘧邪が去らず、四季毎に再発する瘧疾のこと。⑤伝尸病の総称。
※瘧(ぎゃく)-『漢方』間歇性の悪寒戦慄・高熱・出汗を特徴とする疾病。古人はこの病が多く夏秋季及び山林で蚊の多い地帯に発生することを観察していた。
※癆/労瘵(ろうさい)-『漢方』①伝染性の慢性の消耗性疾患をいう。肺結核に類する。肺癆ともいう。また労極・伝尸労・尸注・殗■(殗の旁が世/木)・転注・鬼注などの名がある。②虚損の重症。

〇痢病 しぶり腹の事

一湿熱なり。赤きは血、白きは気、赤き白きの雑(まざ)り出るは脾胃悪く飲食腸胃の間に滞り脾を傷る。故に痢病を為す。鳩尾、気海、関元、三里、下脘、白きによし、上脘痛むによし脇髎痛むに吉。

※痢病(りびょう)-『漢方』赤痢、大腸カタルの類。痢疾。
※痢疾(りしつ)-『漢方』痢疾。腸澼、滞下ともいう。急性の腸道疾患の一つである。多くは湿熱疫毒の気を外受したり、飲食生冷の内傷により、腸中に積滞しておこる。主な症状は、大便の回数が多く、量少なく、腹痛し、裏急後重し、粘液および濃血様の大便を下すことが特徴である。

〇嘔吐(※) からえづきの事

一胃の腑(ふ)虚したる人寒気暑気に冒され食に傷られ或は気結(むすぼ)れ痰聚(あつま)りて嘔吐するなり、上脘、中脘、鳩尾、巨闕、天突、三の兪。

※嘔吐(おうと)-『漢方』邪気が胃にあって、胃の下降作用が失われ、気がかえって上逆することによる症状である。古人は、声だけで物が出ないのを嘔、声がなく物だけ出るのを吐としているが、実際上は区別が難しく、一般には嘔吐と一緒に呼んでいる。臨床上では、胃寒・胃熱・食傷・痰濁などの四種の症状によくみられる。胃寒によるものは、清水を吐し、口には涎が多く、熱いものを好み、冷たいものを嫌い、小便は清利で、舌苔白膩である。胃熱によるものは、食べてすぐ吐き、吐出物には酸いものと苦いものが入り混り、口臭があり、冷たいものを好に、熱いものを嫌い、舌苔は黄膩である。痰濁によるものは、平素から頭眩・胸満・心悸などの症状があり、粘痰や清涎を嘔吐し、舌苔は滑膩である。

〇泄瀉(※) 腹の下る事

一脾胃弱き人食物を過(すご)し或は風寒暑湿の気に中りて泄瀉するなり、関元、大腸の兪、気海、脇髎。

※泄瀉(せっしゃ)-『漢方』単に泄、あるいは瀉ともいう。大便が稀薄、あるいはさらに水様性となって、回数が増すこと。また、大便が稀薄なものを泄といい、水様便を瀉ともいう。

〇霍乱(※)

一食物に生物(なまもの)或は冷物等を多く食して五臓を傷(やぶ)り胃の腑に滞り脾弱くして運ばず或は風寒の気に冒され發る胸腹暴(にわか)に痛みて嘔吐し或は瀉し或は吐し両の足転筋し手足冷へ甚しき時は死す。中脘、巨闕、脇髎、神闕は灸、下脘、鳩尾、上脘、委中より血を出してよし。

※霍乱(かくらん)-『漢方』発病が突然で、大いに吐し、大いに瀉し、煩悶して気持ちが悪いことが特徴である。生冷のもの、腐ったものを食べたり、寒邪・暑湿・疫癘の気を感受しておこる。これには寒熱、乾湿の区別があり、転筋の変もある。本病はこれら、細菌性食物中毒などの疾病にもみられる。俗にははきくだしという。
※疫癘(えきれい)-『漢方』強烈な伝染性をもち、大流行をおこすある種の疾病をさす。

〇秘結(※) 大便の結する病なり

一腎虚する時は身の滋(うるお)ひ竭(つき)て大便結す。其故は婬欲を恣(ほしいま)まにして食事時ならず喰ひ或は酢酒多く飲み辛き熱の物などを多く食して此(この)病を為す。下脘、水分、脇髎各補、十一の兪、瀉、気海、天枢。

※秘結(ひけつ)-『漢方』便秘のこと。

〇咳嗽(※) すわふきの事

一咳は所謂痰なくして聲(こえ)あり肺気傷れて清からず。
一嗽は聲なくして痰あり。脾湿動じて痰を生ず。咳嗽は聲あり痰あり。天突、三の兪、下脘、上脘、不容、脇髎各補、百会、頭痛に吉。

※咳嗽(がいそう)-『漢方』宋以前の書では咳も嗽も同じ意味に使用されている。これ以後、内経にもとづき、咳・嗽・咳嗽を区別して用いる者とがあり、統一した意見は成立していない。咳嗽の発生は外邪の犯肺、臓腑の内傷が肺に及ぶなどの原因があり、よって「咳嗽は肺に止まらずして、肺を離れず」の説がある。

〇痰飲(※)

一火痰は黒色、労痰は膠(にかわ)の如し、湿痰は白く、寒痰は清し、痰の疾(やま)ひ暁(あきら)め難し。
一目眩(くらめ)き耳鳴或は噯(※)し酸(すい)噯(あくび)し、喉詰(つま)り、吐けども出ず飲ども降らず其痰墨の如し或は手足腫れ痛み歯浮いて痛み癢(かゆ)く心下に氷を留むるが如く胸冷え痛み或は不思議なる事を夢に見或は足腕痺れ軟(なえ)、腰の骨卒かに痛み或は風湿(※)の如く脊骨(せぼね)の上に毎日紅(くれない)の如くの筋発(おこ)り或は眼粘り癢く言ふ事成り難し或は喉痺(※)、項(うなじ)の廻りに塊りなど出で或は癲狂(※)し中風、身軟或は風毒脚気(※)或は胸噪(さわが)しく或は嘔吐或は肺癰(※)或は悪心泄瀉寒熱小便に膿出で或は胸の間ごろごろと鳴り或は冷き所などあり。是皆痰の所為(なすわざ)なり。天突、尺沢、三里、合谷、上脘、三の兪、七の兪、中脘、補、水分、補。
一赤き痰には天突巨闕、黄なる痰には天突下脘、白き痰には肺の兪、巨闕、黒き痰には肺の兪、腎の兪。

※痰飲(たんいん)-『漢方』古くは澹飲、淡飲ともいわれた。体内の輸化されない過剰の水液がある部位に停留して発生する疾病をいい、稠濁(ちょうだく)のものを痰、清稀のものを飲と区別している。
※稠(ちゅう)-おおい。しげる。こい(濃い)。こみあう。
※噯(あい)-『漢方』噯気。噫気(あいき)に同じ。気が胃中より上逆して声を出す。その声は沈んで長く、しゃっくりとは異なる。脾胃の虚弱、あるいは胃に痰・火・食滞などがあることにより、気が中焦で滞って上逆しておこる。又は肺気が降りないためにおこる場合もある。
※風湿(ふうしつ)-『漢方』風と湿、二種類の病邪が結合しておこる病証。
※喉痺(こうひ)-『漢方』喉痹。喉閉ともいう。広義に咽喉腫痛病証の総称である。多くは発病および病気の進行が急でなく、咽喉の腫脹発紅疼痛も軽く、軽度の嚥下困難をあらわし、あるいは声が低く出にくくなり、寒熱などの証をあらわすものをいっている。外感内傷のどちらによってもおこり、外感は風熱によるものが多く、内傷は陰虚によるものが多い。
※癲狂(てんきょう)-『漢方』癲と狂は精神錯乱の疾病である。癲は抑鬱状態・無感情・沈黙性痴呆・言語錯乱・飢飽感のないもの、甚だしい場合はこわばって倒れ直視するなどをあらわし、虚証に属する。これは痰気が鬱血することにより、あるいは心脾ともに虚しておこる。狂は興奮状態、さわがしく、衣被をきらい、人を打ったりののしったり、絶えず歌笑し、怒り、甚だしい場合は垣を越えたり、屋根に登ったりする。これは実証に属し、陽気が亢ぶりすぎ、心神が外越することによっておこる。
※脚気(かっけ)-『漢方』緩風、脚弱ともいう。湿邪風毒を感受したり、厚味のものを食べすぎることにより、湿が溜って熱を生じ、脚に流注しておこる。その症状は、腿脚におこり、麻木・痠痛・軟弱無力、あるいは攣急・腫脹・萎枯・脛の紅腫・発熱がある。病が進むと腹に入り心を攻め、小腹不仁、嘔吐して食することができず、心悸・胸悶・気喘・精神異常・言語錯乱などをあらわす。 ※肺癰(はいよう)-『漢方』肺に癰瘍(※ようよう)を生じて膿血を咳吐する病証。多くは風邪熱毒を外感し、肺に蘊阻し、熱が壅(ふさ)がり血が瘀滞し、鬱血して癰となる。長びくと化膿する。臨床的表現としては、発熱悪寒・咳嗽・胸痛・気急・腥臭の膿痰を吐出し、甚だしければ膿血を咳吐とする。肺膿瘍・気管支拡張症などの疾患にあらわれる。
※癰瘍(ようよう)-『漢方』癰疽に同じ。瘡瘍(※そうよう)の大きいもの。
※瘡瘍(そうよう)-『漢方』古代は外科疾患を総称して瘡瘍と呼んだが、後世にいたって外科疾患を瘡瘍と雑証の二つに大別した。体表面上の外科および皮膚疾患の総称を瘡瘍とし、腫瘍および潰瘍のある疾患も含まれる。たとえば、癰・疽・疔瘡・癤腫・流注・流痰・瘰癧などが含まれる。これらは臨床上きわめて多い疾患である。多くは毒邪が内侵し、邪熱が血をあぶったために気血が壅滞してひきおこされるものである。

〇喘急 喘息なり

一體(たい)弱き人脾腎共に虚して一身の痰を養ひ難く以て此疾ひを為す。天突、合谷、三里、脇髎、巨闕、上脘、中脘。

〇翻胃(※) 膈の事

一夫(そ)れ膈噎(※)翻胃の病は七情に冒(おか)され五臓の火動ひて身の液(うるお)ひを耗(へら)し痰熾(さか)んにして脾胃衰へ食を腐(こな)し運ぶことならずして膈と成り噎となり翻胃となる。膈は朝に喰(くい)たる物を夕に吐き夕に喰たる物を朝に吐く。噎は喉より返るなり。羊の糞の如くなるを為ものは死す。中脘吐によし、三里、噎食降らざるによし、天突膈噎によし、太白、肺の兪。

※翻胃(はんい)-『漢方』胃反に同じ。食後脘腹が脹満し、朝に食すると夕暮に吐し、あるいは夕暮に食すると朝に吐す。その吐いた物は、不消化物であり、元気なく、舌は淡紅色で、脈は細く無力であり、食べると反って出るのでこの名がある。
※膈噎(かくいつ)-『漢方』噎膈(いっかく)に同じ。呑みこむ時に咽がふさがっているような感じが噎、胸膈がつかえて飲食をのみ下せないのが膈である。噎は普通は膈の前期症状なので、合せて噎膈という。胃癌・食道癌・食道狭窄・食道痙攣などの病変にみられる。長期の憂・怒の鬱積や、酒類や辛いもの、油っこいもの、硬い物を好物としたために脾を傷り気が結し、津液がめぐらず、集って痰となり、その痰と瘀が互いに結して、食道を阻害して、胃の機能を失わせておこったものである。長びくと、津液の枯渇や胃気の虚衰や脾陽の不振などの衰弱の症候があらわれる。臨床上は次の三種に分類される。1)痰気の交阻。呑みこむ時の咽のつかえ、胸膈の痞満と痛み、大便は難渋し、口は乾き、咽は燥くなどの症状がみられる。2)瘀血の内結。胸膈疼痛し、その痛みは錐で刺したようであり、食べてもまた吐出し、甚だしいものは水も飲み下せない、大便は堅く羊羹のようであったり、あるいは痰涎や紫色の血を嘔吐し、大便は乾いて黒いなどの症状がみられる。3)陽気の虚衰。食べ物を飲み下すことができず、顔色は青白く、寒そうで短気し、うすい涎沫を吐し、顔や足は腫れ、腹は脹れている症状がみられる。

〇癆瘵 身弱き人

一心腎を労(ろう)し傷られて発る。或は風寒暑湿の気に冒され、瘧を疾み咳嗽を出し寒気内に入りて不養生をし房労を淫(すご)し食に傷られて癆瘵と成る其症は身痩せ髪抜け盗汗をかき夢遺(もうぞう)を見、小便に白き物をし腹の内に塊りあり。百会、上脘、下脘、膏肓骨の下に刺す、四花の穴に灸してよし。

〇噦逆(※) しやくりなり

一病後不養生をし胃の腑の内弱く寒(ひゆ)るに因(よっ)て為すなり胸の項(あいだ)より出るは痊(いえ)易し臍の下より起り直に出るものは陰火升(のぼ)つて愈(い)え難し。上脘、肩中の兪、梁丘。

※噦逆(えつぎゃく)-『漢方』しゃっくりと嘔吐。気逆により噦するもの。
※噦(えつ)-『漢方』①胃気の上逆により、発する呃声すなわちしゃっくりのこと。②啘(えつ)に同じ。乾嘔のこと。嘔して物が出ないこと。

〇頭痛

一體虚(よわ)き人風寒の気の為に冒され邪気散せずして偏症の頭痛を疾む或は髪など濯(あら)ひ風に当りて寝れば又頭痛す。肥たる人の頭痛は気虚湿痰なり。痩たる人の頭痛は血虚痰火なり。風寒に中り心(むね)悪(あし)く、からえづきするは頭風(※)なり。左偏痛むは風と血虚となり、右は痰と気虚となり、頸項痛むものは風邪なり、頭の内強く痛むものは真頭痛(※)とて朝に発れば夕に死し夕に発れば朝に死す。百会、前頂、列缺、合谷、曲池、肩井、項拘攣に印堂(両眉の間)前の痛むによし。

※頭風(ずふう)-『漢方』①頭痛が長く治らず、発作がおきたり止んだりするもの。多くは風寒の邪が頭部の経絡に侵入したり、あるいは痰涎や風火が経絡を鬱することによって気血が壅滞しておこる。症状は、発作が反復しておこり、その痛みは一般には激しい。兼証はいろいろあり、たとえば目痛し、甚だしい場合は失明する・臭気のある鼻水を流す・悪心・眩暈耳鳴・頭部の麻木感・項強などがある。②頭部に風邪を感受しておこる症候の総称。頭痛・眩暈・口眼歪斜・頭痒多屑など多種の症候を含む。
※真頭痛(しんずつう)-『漢方』頭痛病証の一つ。主な症状は耐えられないような激しい頭痛・脳にひびくような頭痛・肘膝関節及ぶ手足の厥冷などがある。これは脳に邪が入っておこると考えられた。脳は髄海であり(すなわち脳髄)、真気が集まる所であるので、邪を受けると痛みがひどく、頭痛の中でも重症である。その中には脳の疾患(脳腫瘍など)と関係があるものもある。

〇心痛 胃脘痛なり 世俗に胸虫(むねむし)と云物也

一痛み甚しく手足青く節(ふし)を過(すぐ)るものは真心痛(※)とて朝に発れば夕に死し夕に発れば朝に死す。外邪気に中り生魚(なまざかな)を多く食ひ痰聚(あつま)り心包絡に留つて経絡を傷る。天突、鳩尾、脇髎、中脘、不容。

※真心痛(しんしんつう)-『漢方』心絞痛に類似している。主な症状は心臓の発作性の絞痛みで、常に心胸の閉塞感をともない、甚だしければ大汗、四肢が厥冷し紫紺色になるなどを現す。心窩部位の疼痛(すなわち胃脘痛・心痛・心下痛)とは区別されるのでこの名がある。心筋梗塞・狭心症の類が含まれる。

〇眩暈 目のまふ事

一眼(まなこ)暗く家揺(うご)くが如く起れば仆(たお)れんとす。凡そ眩暈は痰なり。肥たる人は気虚湿痰なり、痩たる人は血虚痰火なり、卒(にわ)かに発(おこ)るは風痰(※)なり。百会、承山、足の三里、人中、脇髎。

※風痰(ふうたん)-『漢方』痰証の一種。①平素より痰疾のあるものが、風邪を受け、あるいは風熱が怫鬱(※)しておこるものをいう。②痰が肝経にあるものをさす。症状は、脈眩、顔が青く、眩暈頭風、胸脇満悶、便溺秘渋、時にイライラする、また痰の色は青く、泡状である。甚だしければ搐搦(※)し、痙攣を発す。また風痰が絡に入ると癱瘓(※)となる。
※怫鬱(ふつうつ)-ふさぐ。気がふさぐ。
※搐搦(ちくじゃく)-ひきつけや痙攣をおこすこと。
※癱瘓(たんたん)-『漢方』四肢が用をなさないこと。多くは、肝腎が虧損(※)し気血が不足しているところに、風寒湿熱痰瘀などの邪気が経絡に侵襲して発するものである。重い場合は四肢が完全に動かず、軽い場合でも、手足は動いても軟弱で、何かのささえを必要とすることが多い。この病証は、脳溢血後遺症などの神経疾患に見られる。
※虧損(きそん)-徳や利益などが、欠けてそこなわれること。また、そこなうこと。

〇腰痛 こしのいたむ事

一大きに力を出し重き物を持ち婬欲を恣にし汗を出し水を浴るが如くなる時は腎を傷る多くは是れ腎虚(※)なり、委中血を出してよし。腎の兪、足の三里、脇髎、絶骨。

※腎虚(じんきょ)-『漢方』腎虧(じんき)ともいう。腎臓の精気が不足する病変である。一般症状としては精神疲労・頭暈耳鳴・健忘・腰痠・遺精・陰痿などがある。

〇脚気

一脾腎の経弱くして風寒暑湿の気に中りて此病ひを為す。腹に入て心(しん)を攻れば死す。
一足の内踝赤く腫れ痛むを遶蹕風(※)と云ひ外踝赤く腫痛むを穿■(諍の偏が足)風(※)と云ひ両の膝赤く腫れ痛むを鶴膝風(※)と云ひ両の股痛む者を腿肞風(※)と云ひ腫れ痛むを湿脚気(※)と云ひ、腫れざるを乾脚気(※)と云ふ。陰陵泉、三里、公孫、絶骨、風市、承山、三陰交。

※遶蹕風(じょうひふう)-繞蹕風か。『漢方』鶴膝風。
※穿■(諍の偏が足)風(振り仮名に、せんそうふう、とあり)-不明。『漢方』には同症で、「穿蹄風(せんていふう)」とあり、意味は「足の外踝の骨が紅く腫れて痛むもの」である。この誤字か。
※鶴膝風(かくしつふう)-『漢方』膝游風・游膝風・鶴節・膝眼風・膝瘍・鼓槌風などともいう。病後、膝関節が腫大して、形が鶴の膝のようになるもの。多くは三陰虧損、風邪の外襲、陰寒の凝滞によっておこる。病の初めは、多くは身体が寒く発熱し、膝部がわずかに腫れ、歩行が不便で、疼痛がみられる。ついで局部が紅く腫れてひどく熱をもつ、あるいは色白くひどく腫れる。日が経過すると、関節腔内に液がたまり腫大し、股脛が細く変形し、潰破後に、膿が水のように出る。あるいは黄色の粘液を流す。治癒は緩慢である。
※腿肞風(たいさふう)-腿叉風か。『漢方』腿、内股の痛むもの。腿風ともいう。
※湿脚気(しつかっけ)-脚気病の一種。脚気病で脚膝が浮腫するもの。多くは水湿の邪を下より感受して経絡が通じなくなったためにおこる。病状は足脛の腫大、麻木して重く、軟弱で力なく、小便不利、舌苔白膩、脈濡緩をあらわす。
※乾脚気(かんかっけ)-脚気病の一種で、浮腫を伴わないもの。これはもともと陰虚内熱のある者が、湿熱や風毒の邪をうけて熱と化し、これが営血を傷り、筋脈を栄養しなくなって本病を呈する。病状は、足の無力感・麻痺・疼痛・攣急・脚は腫れずに日ましに枯痩する・飲食減少・小便熱赤・苔紅色・脈弦数がみられる。

〇黄疸 身の黄に成る病なり

一脾胃の内に湿熱欝して積(つん)で久くして散ぜず故に脾胃の色顔と肌肉とに黄なる色出るなり。五疸とて五あり黄汗、黄疸、酒疸、穀疸、女労疸なり。
一黄汗(※)は足手腫汗出衣染るには中脘、三里、大杼。
一黄疸(※)は遍身顔目小便黄なるには脾の兪、三里、隠白。
一酒疸(※)は身目小便黄に胸痛み顔赤く斑(まだら)なるには胆の兪、委中、至陽。
一穀疸(※)は食喰畢(おわ)れば眩暈偏身黄なるには胃の兪、腕骨、三里。
一女労疸(※)は身目黄に発熱悪寒小便通ぜざるには関元、腎の兪、至陽。

※黄汗(おうかん)-『漢方』黄色い汗のこと。汗が出て水に入ることにより、営衛が壅渇され、あるいは湿熱が内に盛んとなり、風・水・湿・熱が互いに相乗しあい溢れて滲出する。症状は、発熱して口渇し、胸部満悶、四肢頭面が腫れ、小便不利、脈は沈遅をあらわす。
※黄疸(おうだん)-『漢方』身体、目、小便が黄色となるのが三大症候である。病因は脾胃に湿邪が内鬱し、胃腸が失調し、胆汁が外に溢れておこる。臨床上、陽黄と陰黄に大別し、また黄疸、穀疸、酒疸、女労疸、黒疸を五疸という。(『療治の大概集』とは異なることに注意)
※酒疸(しゅたん)-『漢方』酒黄疸ともいう。飲酒の過度により、酒熱が鬱蒸し、胆の熱液が泄せられて本証をひきおこすもので、身体や目が黄ばみ、顔面に赤斑を生じ、心中懊憹として熱痛し、鼻燥き、腹満して食欲なく、時々嘔吐悪心などの症状がみられる。
※穀疸(こくたん)-『漢方』穀癉ともいう。飲食の不節制により湿熱食滞が中焦を阻渇しておこる。症状は寒熱不食、食べれば頭眩し、胸腹脹満し、身目発黄し、小便不利などをあらわす。
※女労疸(じょろうたん)-『漢方』多くは疲労の蓄積、あるいは房労過度によりおこる。症状は身目に黄疸を発し、日暮れ時に手足心が熱くなり悪寒する、額上は黒くなり、小腹は膨満して、大便の色黒く、小便自利するなどをあらわす。本病は黄疸病の後期に多くみられ、肝腎両虚に瘀濁の内阻を兼ねる証である。

〇淋病(※)

一淋病の疾ひ五つあり気淋(※)と云は小便渋りて瀝(しづ)くあり、石淋(※)は茎(くき)痛み石出る、血淋(※)は血出で茎痛む、膏淋(※)は小便膏(あぶら)の如し、労淋(※)は心労し精竭(つき)れば発る、五淋は皆膀胱の熱なり。湧泉、三陰交、関元、石門、腎の兪。

※淋(りん)-『漢方』小便が急迫・短・数・渋・痛などをあらわす病証をさす。初期は湿熱が結聚して膀胱に流注しておこることが多いが、長く癒えなかったり、老人・虚弱な人は、中気が下陥したり、腎虚して気化作用に力がなくなっておこる。
※気淋(きりん)-『漢方』気癃ともいう。主な症状は下腹や陰嚢の張痛、小便の渋滞、あるいは排尿後の疼痛などであり、多くは膀胱の気滞によりおこる。もし病気が長びけば、少腹は脹れて急痛し、排尿困難となり、排尿後ポトポトとしたたる。これは脾腎の気が虚したためにおこるこの症状は前立腺肥大・神経性の尿意頻数症・神経性尿道炎・精系神経痛などに見られる。
※石淋(せきりん)-『漢方』砂淋、砂石淋ともいう。これは、下焦に積熱があり、そのために水液が熬煎(※)されておこる病証である。症状は、排尿困難があって、陰茎中の痛みが少腹にまで及び、ただ砂石が尿とともに排出されることにより痛みは止まる。また、尿は多くは黄赤色、あるいは血尿である。本病は、泌尿器系の結石に属し、その中でも膀胱結石が最も多く見られる。
※熬煎(ごうせん)-水分がなくなるまで煮詰めること。
※血淋(けつりん)-『漢方』尿道に熱く渋るような刺通を伴う血尿で、下腹部が疼痛し脹れるような病証をさす。これは下焦に湿熱が鬱結して、血が妄行することによっておこる。もし熱がなく痛みも微かであれば、陰虚火動に属して、血を統摂することができなくなっておこったのである。 ※膏淋(こうりん)-『漢方』内淋ともいう。小便が米汁状あるいはクリーム状に混濁したり、排尿がうまくいかないことが主な症状である。尿道が熱く渋って痛むものは実証に属し、熱なく痛みもないものは虚証に属する。実証のものは、湿熱が下注して膀胱に鬱結することによって、気化作用が行われず、脂液を制御できなくなっておこる。虚証のものは、腎が虚したもので蒸化と脂液制御することができなくなっておこる。
※労淋(ろうりん)-『漢方』淋証が長い間治らず、過労により発病するので、この名がある。主に小便の淋瀝・排尿後の陰部の隠痛・四肢の倦怠と腰のだるさと痛みがあり難治である。これは淋証が長い間治らなかったり、あるいは治療を失敗して、脾腎が共に虚したためにおこる。顔色は青白く、少気し、ものうくしゃべるものは、脾の気虚のためである。いかにも寒そうで、脈虚弱なのは腎の陰虚のためである。手足心が熱く、舌が赤く、脈細数なのは、腎の陽虚のためである。

〇消渇(※) かわきの病の事

一上焦は肺火、水多く呑み食少し。
一中焦は胃火、食速く消して飢易し、腎の病なり。人中、脾の兪、中脘、三里、腎の兪。

※消渇(しょうかつ)-『漢方』しょうかちとも読む。痟渇(しょうかつ)、消癉(しょうたん)ともいう。宋、元以降は三消といわれている。1)一般に多飲・多食・多尿の症状を特徴とする病証をさす。多くは美味のものを過食し、飲食に節度がなく、あるいは感情の失調、労苦と安逸の節度を失することによって臓腑燥熱、陰虚火旺をひきおこしておこる。

〇赤白濁 小便の濁る病なり

一赤濁(※)あり白濁(※)あり小便膏の如く糊の如く糊濃(こいのり)の如く泔(※)水(しろみず)の如く赤き膿の如くなる者あり、是皆湿熱内傷又は腎経虚して濁るなり、赤濁は心虚の熱、白濁は腎虚の寒、下脘瀉、気海、脇髎赤にも白にもよし。

※赤濁(せきだく)-『漢方』①小便が赤色に混濁すること。これは溺濁に属し、尿血に同じ。②血の混じった濁物が尿道よりたえずしたたり、排尿時に灼熱刺痛感があって、小便は赤くないもの。これは精濁に属す。
※白濁(はくだく)-『漢方』①小便の色が白く混濁すること。溺濁に属す。②尿道口から常に白色濁物が摘出し、排尿時渋痛が顕著であるもの。なお尿は混濁しない。精濁に属す。
※泔(ゆする)-頭髪を洗い、くしけずること。また、それに用いる湯水。古くは、米のとぎ汁などを用いた。

〇水腫(※) みづばれの事

一総身腫れて光り指にて按せば竅(※)あり指を揚(あげ)れば塡(みつ)るなり、脾虚して水穀を運ぶ事成らずして皮膚に注ぎ泄(もれ)て腫(はる)るなり。水分、気海、三陰交、三里、百会、上脘。

※水腫(すいしゅ)-『漢方』水・水気・水病ともいう。体内に水湿が停留して、面目・四肢・胸腹・甚だしい時は全身に浮腫をおこす一種の疾患。これは心性水腫・腎性水腫・肝性水腫及び栄養不良性の水腫などの疾患を含んでいる。実証の多くは外邪の侵入により肺気の宣降作用が失われ、三焦の決瀆の力がなくなり、膀胱の気化が失調しておこる。
※竅-原文は「穴冠に殷」の字であるが誤字と考え「竅」とした。

〇脹満 腹の脹(は)る病の事

一脾胃の気弱く水穀を運ぶ事ならず、聚り散ぜずして腹脹るなり、鼓脹とも云ふ愈へ難き病なり。気海、三里、三陰交、上脘、中脘。

〇積聚(※)

一五積六聚あり五積は定まる所ありて陰に属し六聚は定まる所もなし形もなく気に属す。
一心の積を伏梁(※)と云ひ其状(かた)ち臍の上に起り大きさ臂の如く胸の項(あいだ)に横(よこた)ふ。
一肝の積を肥気(※)と云ひ其状ち左の腋の下にあり大きさ杯を覆(かたむ)けたるが如く手足頭などあるが如し。
一腎の積を奔豚(※)と云ひ臍上に起り或は心の下に升り降りすることあり豚の状ちの如し。
一肺の積を息賁(※)と云ひ其状ち右の脇下にあり大きさ杯如し。
一脾の積を痞気(※)と云ふ其状ち中脘に見(あら)はれ大きさ杯を覆けたるが如くにして塞(ふさがっ)てあるなり。其外にある塊りは痰と食積死血なり。三里、中脘、建里、不容、脇髎上脘、聚(※)によし下脘聚によし。

※積聚(せきじゅ)-『漢方』せきしゅう、しゃくじゅうとも読む。腹内に結塊があって、脹れや痛みをともなう病証。一般に、積塊が明らかにあって、痛みや脹れが強く、固定して移動しないものを積といい、積塊が不明確で、一時的に脹れがきて痛みにきまった場所がないものを聚という。性質は癥瘕(※)や痃癖(※)に似ている。病因としては、七情が鬱結して気血が瘀滞したために、あるいは飲食内傷により痰が滞ったために、またあるいは寒熱が失調し、正気が虚し、邪が結したためによる。
※癥瘕(ちょうか)-『漢方』癥瘕は腹内の痞塊をさし、脹れたり痛んだりする一種の病証である。固定して移動せず、痛みも一定の場所にあるものを癥といい、集まったり散ったりして、痛みも一定の場所にないものを瘕という。『聖済総録』などでは積聚と類似しているとしている。癥瘕は多くは下焦に生じ、気分の抑鬱や飲食による内傷によって肝脾が損なわれて、臓腑の調和がみだれ、気機が阻滞し、瘀血が内に滞り、長びいてだんだんと積もって成ったものである。また正気の不足も本病発生の主な原因となる。
※痃癖(げんぺき)-『漢方』①積聚と類似している。一般に臍腹部あるいは脇肋部に癖塊があるものの総称。痃と癖は二つの証候であるが、習慣上痃癖とよんでいる。痃は臍の両傍がすじばり盛りあがっていることの形容で、それは弓の弦のようで、大きかったり小さかったりし、痛んだり痛まなかったりする。癖は両脇の間にかくれた積塊をさし、普段は按じても見つからないが、痛む時に按ずると物があるのがわかる。古人は、食癖・飲癖・寒癖・血癖など多くの種類に分けた。その病因は、飲食の不摂生・脾胃の損傷・寒痰の結聚・気血の鬱結で、消痩・食少・疲労感などの全身症状をともなう。
※伏梁(ふくりょう)-『漢方』脘腹にあらわれる痞満腫塊の一連の疾患をさしていう。これは気血の結滞により発するものである。症候には次の四種がある。1)少腹部に痞塊硬満を発し、上下左右に根があり、内に膿血を裹み、腸胃の外部にあり、胃脘部を上迫する。これは内癰に属す。2)身体の股脛が腫れ、臍のまわりが痛む。これは気が大腸に溢れておこるものである。33)病が心下にあり、その塊が上下に移動し、時に唾血する。4)五積の一つ。
※肥気(ひき)-『漢方』脇下に覆杯のような塊のある疾患をさす。肝気が鬱滞することにより、瘀血が凝結しておこる。『難経』中にある五積病の肝積に属し、左脇下の痞塊をさす。それは杯を覆せたようで頭足があり、長期にわたると常に瘧疾あるいは咳嗽などの症状をともなう。
※奔豚(ほんとん)-『漢方』賁豚、奔豚気ともいう。『難経五十六難』によれば、五臓の積の一つで、腎の積のこととしている。症状は、少腹より胸脘や咽喉に気が上衝し、発作時には苦痛が激しく、腹痛や、往来寒熱を発し、長期に及ぶと咳逆・骨痿・少気などをあらわす。多くは、腎臓の陰寒の気の上逆、あるいは肝経の気火の衝逆によりおこる。
※息賁(そくふん)-『漢方』肺積ともいう。気血が衰え、肺気が壅塞して脇下に積したためによるもので、右脇下に杯をふせたような塊ができて急迫感を呈し、胸背が痛み、吐血し、さらに寒熱・咳嗽・嘔逆・呼吸促迫などをともなう。
※痞気(ひき)-①五積の一つで、脾の積に属す。多くは脾虚気鬱により、痞塞して通ぜず、留滞積結しておこる。症状として胃脘部に覆盆のような腫塊突起をあらわし、肌肉消痩・四肢無力などがみられる。長期間癒えないと黄疸を発する。
※聚-不明。「あつめる」という意味で補であろうか。

〇自汗 あせかく事 附たり盗汗(※) ねあせなり

一夫れ心の液を汗と云ふ心熱する時は汗出づ、自汗は陽虚に属し常に出づ。盗汗は陰虚に属す寝人(ねいり)たる内に出で覚むる時は止む。自汗には腎の兪、肝の兪、脇髎盗汗には角孫、中脘。

※盗汗(とうかん)-『漢方』寝汗ともいう。ねむると汗が出て、目がさめると汗が止むもの。虚労のとき、特に陰虚のときに多く見られる。その他、陰火盛、肝熱などのときにも見られることがある。

〇癲癇(※) くつちかき事

一夫れ癲は心血の不足なり、好んで笑ふ事常ならず、仆れ錯乱す。
一癇は卒かに目を廻し仆れ身軟(なえ)て歯を噛み涎沫(よだれあわ)を吐き人を知らず、頓(やが)て醒むる痰の故なり。鳩尾人中、間使、肝の兪、上脘、天突。

※癲癇(てんかん)-『漢方』①癇病のこと。風眩ともいう。古くは癲、癇の二字は同義。②癲証と癇証の合称。癲(※)は精神錯乱の一種の疾病をさし、癇(※)は発作性の精神異常の疾病をさす。
※癲(てん)-『漢方』①精神病の一種。痰気の鬱結による。症状は、精神が抑鬱され、表情が漠然とし、あるいはブツブツ一人ごとをいう、また泣いたり笑ったり常でなく、幻想幻覚があり、言語錯乱して穢潔もわからず、食欲もなく、舌苔は薄膩、脈弦滑などをあらわす。②病がなおらず、しきりに発すること。
※癇(かん)-『漢方』本病は一種の発作性精神異常の疾病である。また、胎病とも言って、早くも『内経』において遺伝的要素のあることが指摘されている。古代では、癇と癲の二字を同義に用い、『景岳全書』では、癇のことを癲と称している。『千金要方』では癲癇と称し、俗に羊癇風といい、さらに、10歳以上の患者を癲、10歳以下の患者を癇としている記載がある。本病は、驚恐あるいは精神の失調、飲食の不節制、過労などにより、肝脾腎の三経を傷つけ、風痰が気にしたがって上逆したために発する。症状としては、失神して顔面蒼白となり、目を見ひらき、すぐに回復して正常にもどるもの、あるいは突然昏倒して涎沫を吐し、目がつり上がって歯をくいしばり、手足がひきつるもの、あるいは羊のようなうめき声をあげるものなどがあり、いずれの場合も醒めた後は多少の疲労感を残すだけで、常人と同じになるが、発作はくり返されることがある。

〇吐血 血をはく病の事

一夫れ積熱の致す所なり衂血(※)も同じ。肺の兪、上脘、天突、巨闕、鳩尾、衂血には曲節(※)、郄門。

※衂血(じくけつ)-『漢方』衄血。①外傷によらずに外部に出血する病証をさす。眼衄・耳衄・鼻衄・歯衄・舌衄・肌衄などの総称。②鼻出血のこと。鼻衄(※)。
※鼻衄(びじく)-『漢方』鼻中出血・鼻衄血ともいう。鼻中より出血すること。もし鼻中の出血が止まらなければ、鼻洪という。肺熱が上壅するものは、鼻衄して鼻孔が乾燥し、咳嗽して痰が少ない。
※曲節-不明。経穴名であろうか。曲池もしくは曲鬢(きょくびん、こめかみ辺)の誤写であろうか。

〇下血 大便に血下る病の事

一大腸に風あれば必ず大便より先(さき)え血下る近血(きんけつ)と云ふ臓毒(※)の下血は必ず大便より後に血下る遠血(※)と云ふ。気海補、脾の兪、補、百会、腎の兪、妙なり、関元。

※臓毒(ぞうどく)-『漢方』①臓に毒が積もっておこる痢疾のこと。②内傷が長びいておこる便血。血色は黯(くろ)く、多くは排便後にみられる。③肛門腫硬して疼痛し出血すること。④肛門癰(※)のこと。
※肛門癰(こうもんよう)-肛癰・臓毒・倫糞鼠・盤肛癰ともいう。肛門内外の傷のこと。湿熱の下注により発し、消退しにくく、潰えた後に漏になり易い。醇酒厚味のものを過食することにより、湿濁が変化せず、肛門に注いでおこるものは実証に属し、肛門は焼けるように痛く紅く腫れる。ひどい場合には重墜刺痛感があり、形は桃李のようである。これは肛門周囲膿腫に属する。
※遠血(えんけつ)-大便が出た後に暗黒色の出血をする症状をさす。これは直腸や肛門の部位を遠くはなれた出血なのでこの名がある。これは上部の消火器管の出血によくみられる。

〇脱肛(※) 肛門の出る病の事

一肺の臓虚し寒(ひえ)る時は肛門出るなり、女産の時、力を出し又は幼兒久しく腹下り臓寒る時は出るなり。縣枢、中脘、百会。

※脱肛(だっこう)-截陽ともいう。直腸あるいは直腸粘膜が肛門外に脱出する病証。虚弱な小児や老人に見られる。多くは中気の不足・気虚下陥・肛門弛緩などによりおこり、あるいは大腸の湿熱などによりおこる。初期はただ大便時に肛門が脱垂するが、自然と納まる。病気が長びけば脱出は比較的長く、手を用いなければ納めることができず、運動・疲労・労働・咳嗽・力を入れた時などのたびにおこる。脱出時には墜腸感があり不快で、もし脱出して時がたちこれを納められなければ、局部は紫赤色になり、腫痛は激しくなり、甚だしければ潰爛する。

〇遺尿(※) 覚えず小便たるる事

一心腎の気虧(か)け陽気衰ろへ寒て出るなり。関元、石門、中極。

※遺尿(いにょう)-『漢方』①小便失禁。②寝小便のこと。

〇遺精(※) 夢に精泄るる事

一邪気陰分に在つて神舎(たましいやど)りを衛(まも)らず心に感ずる所あつて夢に精漏るなり。腎の兪大補、気海補。

※遺精(いせい)-『漢方』遺泄、失精ともいう。夢をみて遺精するものを夢遺といい、日中にもらすものを滑精という。主に心腎不安・相火熾盛・腎気不固などによりおこる。また湿熱下注のものもある。心腎不交のものは夢をみていて遺精し、頭暈、心悸・神経疲労・小便黄色量少なく熱感がある。相火熾盛のものは、陰茎が勃起し易く、口乾き、舌は赤く、頭昏目眩、耳鳴、腰のだるさがある。腎気不固によるものは、精液が漏れ易く、顔色白く、精神疲労、頭眩、腰がだるい、脈沈弱などをあらわす。湿熱よりおこったものは、口苦、小便赤、舌苔黄膩などの証をともなう。

〇上気(※) 気の上る事

一下寒る時は気上るなり。三陰交、三里、百会、風市。

※上気(じょうき)-『漢方』①肺気が上逆して、呼気が多く吸気が少なく、気息が急促するものをさす。②上焦の心肺の気をさす。心肺は人体の上部にあるのでこの名がある。

〇腹痛 腹のいたむ事

一腹の痛みは寒熱、食結、湿痰、虫、虚実の故なり。
一痛み増事もなく減る事もなく痛むは寒なり。腹俄かに痛み卒かに止するは熱なり、腹痛んで下り下り後痛み寛ろぐは宿食(※)なり。痛み所ろ変らず一つ所にて痛むは死血なり、小便通ぜずして痛むは湿痰なり。腹引つり腋の下鳴るは痰なり腹痛み或は止み面(おもて)白く唇赤きは虫なり、手を以て按せば腹柔らかに痛み寛ろぐは虚なり、腹脹り硬く痛(いたん)で手にて按(おさ)れざるは実なり。内関、天枢、上脘、中脘、胃の兪、巨闕、梁門、石門、三陰交、三里。

※宿食(しゅくしょく)-『漢方』飲食が胃腸に停積している病証。多くは過食、あるいは脾虚による消化不良のために生ずる。症状は脘腹脹痛・酸臭のある噯気・悪心して食べたくない・大便は秘結するか、あるいは出てもさっぱりしない・舌苔は膩となり、さらに悪寒・発熱・頭痛をともなう。

〇諸虫門 もろもろのむしの事

一諸虫は大腸胃の腑の内の湿熱に生ずるものなり。外台秘要と云ふ書に曰く虫九の種あり何れも人の臓腑を啖(くら)ふ、一に伏虫(※)長さ四寸ばかり二に回虫(※)長さ一尺程三に白虫(※)長さ四五尺余り四に肉虫(※)爛れたる杏子の如し五に肺虫(※)蚕の如し六に蜎虫(※)蝦蟇(かえる)の如し七に弱虫(※)瓜瓣(うりざね)の如し八に赤虫(※)生肉の如し九に蟯虫(※)菜の虫の如く小さし。諸の虫多く生じて心を貫けば人を殺す、又世に寸白(※)と云ふものあり臍上に張陰嚢を苦むるものなり。脇髎、不容、中脘、天突巨闕、神闕は灸、大横寸白によし大赫陰嚢腫るによし。

※伏虫(ふくちゅう)-『漢方』伏虫病。脾胃が虚弱で、湿熱虫蝕によっておこる。症状は軽重があり、軽ければだるく食少なく、腹痛腹瀉、重ければ面黄浮腫、羸痩無力、あるいは不食、あるいは茶葉・生米・紙などの異物を好んで食べるなどをあらわす。本病は鈎虫病に似ている。
※回虫(かいちゅう)-蛔虫であろうか。長虫ともいう。『漢方』蛔虫病。心中病、蚣蛕(こうかい)ともいう。蛔虫が人体内に寄生したことによって発生する疾病のこと。脾胃虚弱により、生冷甘肥油膩あるいは不潔な瓜果蔬菜(※)を雑食して発生する。病証は腹痛し、痛みに休止あり、あるいは痛所に腫塊聚起し、上下に往来活動し、虫動により痛み虫静にて痛みが止み、虫痛は心を攻めれば胆道虫症に相似する。同時に面白色あるいは黄白まだら、あるいは虫斑を発生し、体は消痩し、清水あるいは蛔虫を嘔吐する。
※蔬菜(そさい)-食用のために栽培する草木。俗に青物とも呼ぶ。
※白虫-不明。
※肉虫(にくちゅう)-『漢方』九虫病。体内にくさった杏の様な形のものがあってそんために煩満するもの。
※肺虫-不明。
※蜎虫-不明。
※弱虫(じゃくちゅう)-『漢方』瓜のヘタのような形で、人を多唾させる。
※赤虫(せきちゅう)-赤虫病。『漢方』症状は、腸鳴や腹瀉で、時に膿血を便することもある。
※蟯虫(ぎょうちゅう)-蟯虫病。『漢方』腎虫病ともいう。蟯虫が腸に寄生しておこるもので、小児に多い。夜間に肛門が痒く、甚だしければ睡眠に影響を及ぼして煩驚不安となる。
※寸白(すんはく)-寸白病。『漢方』条虫。さなだむし。

〇口中門 口歯の疾の事

一夫れ口は脾胃の主る所なり、唇も亦脾の主る所、脾胃邪を受れば唇疾(や)む、風勝つ時は唇動く、寒勝つ時は唇上る、熱勝つ時は裂る、気欝する時は瘡(かさ)を生ず。
一舌は心の主る所なり風寒是に中る時は舌強して言ふ事なり難し。
一歯は骨の余り腎の主る所なり、精気強き時は牙自から固し腎気衰ふる時は歯自から豁(す)く歯の痛みは胃の腑の火熾(さか)んなり、虫喰ひ痛むは大腸胃の腑の内に湿熱のある故なり。
一喉腫れ痛み瘡を生じ喉塞り言ふ事なり難きは風熱痰火なり急に治せざれば死す。
一喉痛には天突、耳門、口開き難きにもよし。
一口熱には頬車、痛むにもよし。
一重舌卒(にわ)かに出で死に入るには天容。
一歯両の頷(おとがい)赤く腫れ痛むには人中、合谷。
一上の牙偏(かたがた)痛み耳の前に引攣り口開き難きには頬車、合谷、大迎。
一下の牙偏痛み頬項赤く腫れ痛むには頬車、陽谿、虫喰歯には頬車、列缺、犢鼻。

〇眼目 目の病の事

一夫れ人に両眼あるは天に日月あるが如し万の物を見、一身の肝要なり目の病七十二ありと雖ども有増(あらまし)を記す。
一烏晴(くろまなこ※)は肝の臓の主り、眥(めがしら)は心、胞は脾、白晴(しろまなこ※)は肺、瞳子(ひとみ)は腎なり。三陰交、風門手足の三里、百会、肩井、肝の兪。
一目に外障(※)かかり渋りて開き難きには晴明、肝の兪、合谷。
一目風に中(あた)つて爛れ泪出るには晴明、攅竹、二間、絲竹空。
一目風に中り腫痛んで弩肉(どにく)出るには晴明、攅竹、肝の兪、委中、合谷、列缺。
一目卒かに赤く腫れ痛むには迎香、攅竹、合谷。
一目赤く痛で涙出で止ざるには攅竹、合谷、臨泣。
一赤く痛むには承漿、百会。
一倒睫拳毛(※)には晴明、瞳子髎。
一痛むには肝の兪、中脘、石門。

※晴-睛(セイ・ひとみ)の誤記と思われる。
※外障(がいしょう)-『漢方』まぶた・両眥・白睛・黒睛などの部位の疾病をさす。実証は六淫の外襲あるいは内の鬱熱・痰火・積滞・及び外傷などが原因となり、虚証は肝腎の陰虚・虚火上炎・脾気虚弱などの原因による。症状は発赤・腫脹・糜爛(びらん)・流涙・めやにが多く粘稠または乾結・翳・膜・弩肉などの発生・痛痒羞明・砂渋感などを発生する。
※倒睫拳毛(とうしょうけんもう)-『漢方』倒睫、拳曲、拳毛倒挿ともいい、俗にいうさかさまつげのこと。本病は椒瘡(砂眼)の誤治などによりおこる。睫毛が内側に倒れているために、たえず眼珠を刺激して渋眼・流涙・羞明を引きおこす。

〇耳門 耳の病の事

一夫(そ)れ耳は腎の主る所なり、腎虚する時は耳聞へずして鳴るなり、左の耳の聞えぬは胆の腑の火動ずるなり、右の耳聞えぬは色欲相火動くなり、両の耳聞えぬは胃火なり、両の耳腫れ痛むは腎経の風熱のある故なり、両の耳より膿出るも亦風熱の故なり。
一耳聞えぬには聴会、迎香、三里。
一耳鳴には頬車、迎香、百会。
一痛むには耳門、肝の兪、脇髎、頬車、風池。

〇婦人門 女の疾(やま)ひを集め書くなり

一夫れ女は十四になる時、月水行(めぐ)り男は十六なる時、陽精(※)行く、是皆陰陽の数に合ふ。夫れ人に夫婦あるは天地の如し天地の道は陰陽和合して男女を生ず。故に女は先(ま)づ月水調ふれば万病生せず万病生ぜざれは孕む事を為す。
一凡そ女の病は多くは気盛んにして血虚するなり。月水或は進み或は後れ或は多く或は少く或は越て来らず、一月に両度(ふたた)び来る者は是れ調(ととのは)らざるなり、例(いつも)より早きは血減りて熱あるなり、又例より遅くして来て痛みを為すものは血耗(へ)りて寒なり、又来らんとして痛みを為すものは血実(じつ)し気滞(とどこ)ふるなり、又来て後ち痛むものは気血の虚なり、又久しくして来らず腹脇に塊ありて痛みを為すものは血結ぼれ癥瘕なり、癥瘕と云ふは女の腹の塊り積(しゃく)なり、崩漏(※)と云ふは血の多く出る症(やま)ひなり、帯下(※)と云ふは少しづつ久く出るなり、婦人子無きものは気血倶に虚するなり、肥たる人は痰多く身の膩(あぶら)充(みち)て子宮を塞ぐ、痩たるものは火多く子宮燥(かわ)いて血なし。

※陽精(ようせい)-『漢方』天地間の燥熱の精気をさす。
※崩漏(ほうろう)-崩中漏下ともいう。月経時でもないのに、突然大量の子宮出血をすること、あるいは出血が絶えずだらだらとあること。特に前者を崩、後者を漏と呼び分けることもあるが、崩から漏に、あるいは漏から崩に変わり易いので崩漏と総称する。本病は、思春期と更年期の婦女に多発し、衝任が固守していないことが基本病理となっている。なお、血熱崩漏・気虚崩漏・肝腎陰虚崩漏・血瘀崩漏などに分類できる。
※帯下(たいげ)-『漢方』①広義では婦人科の疾病をいう。人体の帯脈以下の部位を帯下といい、婦人科病証を帯下病ともいう。②狭義では膣より流出する一種の粘液様物質をさす。それは綿々として続き、帯のようであるところから帯下と名づけられた。白帯・青帯・黄帯・赤帯・黒帯・赤白帯下・五色帯下などがある。

 産前

一産前には重き物を持ず高き所の物を取ず腹を立ざるものなり、必ず難産すとあり、まづ逆産は足を出し、横産は先づ手を出し、坐産は先づ尻を出す、是れ皆力を出す故なり。手足先づ出すには手足の内を鍼にて一二分の深さ三つ四つ刺し塩を其上え傅(ぬ)る、子痛みを得て軽々と引き入り返り生るるなり。

 胞衣(※)下ざる事

一胞衣下ざるは子産み畢(おわ)つて後ち血、胞衣の中え流て入て膀(ふく)れ下ざるなり。
一子、胎内にて死する事あり早く驚き或は強く腰を抱(いだ)き荐(しき)りに捜(さぐ)り診(こころむ)るに因て胞衣傷れ血燥(かわ)き涸(か)るるの故に因てなり、其証(しる)し母の唇舌黒く青きは母子倶に死す舌黒く或は脹り悶える事甚だしき時は子死す能(よ)く慎むべし。

※胞衣(ほうい)-『漢方』胎盤、後産のこと。俗に「えな」といい、子衣、胎衣とも呼ばれる。

 産後

一産後には先づ美酒を熱く燗(かん)し幼き兒の小便半分雑ぜ杯に一つ飲せ目を閉がしむ須臾(しばらく)坐して床に昇せ高く倚り掛らせ膝を立て仰けに臥しめ時々喚び覚し醋(す)を鼻に傅(ぬ)り或は墨にて灌(そそ)ぎ漆の干(ひ)たるを焚く干たる漆なくんば古き塗物を焚く手にて胸の頃(あいだ)を捜(さぐ)り臍(ほぞ)の下に至りて悪血の滞(とどこ)ふらざるやうにし斯(かく)の如くすること三日眩暈(めまい)血の上る事なし、酒は血を行らすと雖ども多くはすべからす血を引て足手に入り眩暈意(ここ)ろあるものなり。

 産後

一食、脾胃を傷り泄瀉痢疾(しぶりばら)になりては治(いえ)難し。
一産後母の乳強り塊り散ぜず寒熱痛みを為すものは速かに揉み散らすべし、乳通じ塊り自から消るなり、若し消えざれば乳癰(※)と為る。
一月水通ぜざるには曲池、三陰交、肘尖、四満、中柱、間使、中極、関元。
一産後臍腹痛み瘀血(※)止ざるには水分、関元、三陰交、難産分娩せざるには三陰交、合谷、至陰に灸す。
一子宮久しく寒く孕むこと成り難きには中極、三陰交、子宮。子宮は中極の旁ら三寸にあり。
一崩漏、帯下、子無には気海、三陰交、地機。
一難産子母の心を握つて生れざるには巨闕、合谷、三陰交。
一胞衣下りざるには曲骨、腎の兪、崑崙。
一産後母の乳足ざるには乳根、脇髎、絶骨、前谷。
一産後瘀血(※)出で止ざるには関元、石門、気海、痛むにも吉。
一後腹痛むには腎の兪、関元、気海。
一血塊(※)には中脘、関元、十四の兪。
一赤帯(※)、白帯(※)には帯脈、五枢蠡溝、百会、虚し痩たる人にもよし、腎の兪同じく関元、同じく三陰交。同じく。

※乳癰(にゅうよう)-『漢方』吸乳・妒乳(とにゅう)・吸奶(きゅうだい)ともいう。多くは肝気の鬱結・胃熱の壅滞によっておこる。初期は、乳房に硬いしこりがあらわれ、脹痛し、乳汁が十分に出ず、また悪寒発熱などの全身症状をともなう。漸次腫塊が増大し、赤くなり劇痛し、寒熱が去らず、化膿してくる。急性乳腺炎のこと。
※瘀血(おけつ)-『漢方』血液が体内に瘀滞しているものをいう。経脈外に溢出して組織間隙に積存しているもの、あるいは、血液の運行が阻害されて経脈内に滞留しさらに器官内に瘀積しているものなども、すべて包括されている。瘀滞の発生が、ある疾病により二次的に起こる場合と、逆に瘀滞したために疾病を生ずる場合とがある。前者の例としては、打撲・閉経・寒が凝し気滞するなどにより瘀滞を発生する場合であり、後者の例としては、瘀滞により、気機の阻滞・経脈の阻害・瘀熱が互いに結す・瘀が積して瘕をなす。さらには畜血して発狂するなどの場合がある。臨床上の表現は複雑で、面色の黧黒(れいこく)・皮膚は青紫となり鱗状に乾枯する・局部の固定した刺痛で按ずるを嫌う・紫色の血腫・小腹の硬満・胸脇のつっぱるような痛み・経閉・大便黒色・舌紫暗あるいは瘀点がある。脈渋、重い場合は、健忘・驚狂などがみられる。このほか、長期にわたる疾病は、ほとんど瘀血の要素を含み、したがって、なかなか治りにくい疾病では、瘀血によって弁証論治しなければならない場合も決して少なくない。瘀血に関する現代研究によれば、以下にあげるいくつかの病理変化もまた瘀血の範疇としてとりあげている。1)血液循環障害、とりわけ、微少な循環障害によるところの鬱血・出血・血栓・水腫など。2)炎症による組織の滲出・変性・壊死・萎縮・増生など。3)代謝障害による組織の病理反応。4)組織の無制限な増生、あるいは細胞分化の不良。
※血塊(けっかい)-『漢方』血液が体内で停滞し結して塊となったもの。多くは紫黒色を呈する。
※赤帯(せきたい)-『漢方』帯下赤、赤帯下ともいう。膣より綿々として断えずに、紅色粘濁性で、血液に似ているが血液ではない分泌物を出すものをいう。流出物が赤色だけの分泌物であれば経漏に属し、白色が混ずれば赤白帯という。一般には赤帯は心肝の火が盛んになって引きおこされ、熱に属することが多い。経漏は飲食の不摂生により、脾の健運作用が失調し、湿熱が下迫しておこり、虚に属することが多い。赤白帯は湿熱が留まり、子宮内の瘀血をまじえることに原因する。情志の鬱血によりおこる場合があり、これは湿熱の夾雑の証に属することが多い。本病は、子宮頸糜爛、子宮内ポリープに多くみられ、もし長い期間治療しない場合は癌を考慮し、早期診断治療すべきである。
※白帯(はくたい)-『漢方』帯下白ともいう。婦人が陰道より白色の粘液を流出し、綿々と帯のようであるところから白帯という。月経の前後あるいは妊娠期におこり、量が適当であるものは、正常の生理現象に属す。もし量が多く、臭いがあり、腰痠腹痛などをともなうものは、病気の状態である。多くは脾虚・腎虚・湿が下に注ぐことにより、帯脈が失調し、任脈が固守しないためにおこる。

〇小兒門 幼き兒の病を聚め書くなり

一夫れ小兒の病は先づ顔の色を見る、肝の臓より病ひ出るは顔の色青し、心の臓より病出るは顔の色赤し、脾の臓より病出るは顔の色黄なり、肺の臓より病出るは顔の色白し、腎の臓より病出るは顔の色黒し、先づ五臓の病を能く分別して性れ質の強弱を考ふべし。
一両の足寒る時は傷寒と知るべし、総身寒は傷寒、中指熱せば傷寒、鼻冷は瘡、麻疹の類なり、耳冷は風熱の症、上(か)み熱し下(し)も寒る時は食に傷らるるなり。
一男は左女は右の手の中指寒は出物、顔の色赤きは風熱の症、青きは驚風(※)、黄なるは肝積(※)、白きは虚寒、黒きは腎の臓傷れて死するなり。
一小兒三歳より内は男は左女は右の手の食指(ひとさしゆび)の筋(すじ)を見る是を虎口(ここう)と云ふ、本の節を風関(ふうかん)と云ひ二つ目の筋を気関(きかん)と云ひ、三つ目の筋を命関と云ふ。風関に筋見ゆるは病軽し、気関に見ゆるは病ひ重し、命関に見ゆるは治り難し。
一紫色の筋見ゆるは熱なり赤きは傷寒、青きは驚風、白きは疳(※)、黒きは中悪(※)、黄は脾胃の苦しみなり。

※驚風(きょうふう)-『漢方』小児科でしばしば見られる病証の一つである。驚とは驚厥(※)のこと、風とは抽風のことである。小児疾患にあっては、凡そ風によって驚厥や抽搐(※)症状をあらわすものを総称して驚風という。急驚風と慢驚風の二種がある。現代病名では小児のひきつけ・肺炎・中毒性の下痢・流行性乙型脳炎(※)などに相当する。
※驚厥(きょうけつ)-『漢方』①急激に甚だしい精神疾患を受け、気血が逆乱して地に昏倒し、人事不省となる現象のこと。②小児の驚風の症候をいう。
※抽搐(ちゅうちく)-ひきつけのこと。
※流行性乙型脳炎-日本脳炎の中国名。
※肝積(かんせき)-『漢方』古病名。王叔和は「肝の積、名づけて肥気という。左脇下にあって覆杯のごとく、頭足あり、久しく癒えず、人をして咳逆痎瘧を発せしむ」という。『難経』の論述に、さらに脈弦にして細、両脇下痛み、痛みは少腹に引き、斜めに心下に走り、足が腫れて冷え、疝気、瘕聚、小便の淋漓(りんり)、皮膚や爪甲の枯萎、転筋などの証をつけたしている。
※疳(かん)-『漢方』疳証、疳疾ともいう。「疳は乾なり」とも言われている。本病は多種の慢性的な疾患によって痩せおとろえ、津液が乾枯するものをいい、古代の小児四大証(痘・麻・驚・疳)の一つにあげられている。臨床上の特徴としては、面黄して肌痩し、毛髪は焦枯し、腹は大きく青筋がみえ、精神が衰弱するなおである。多くは、栄養不良や慢性の消化不良といった脾胃の衰えた痢病に見られる。さらに無辜疳(頭部淋巴腺炎・淋巴結核)・疳癆(嬰幼児結核)・寄生虫病・五官疾患などの疾病との類似点も多い。なお本病には、五臓及び病因病理により、肝疳・心疳・脾疳・腎疳・疳癆・蛔疳など、また症状により疳熱・疳渇・疳瀉・疳痢・疳腫脹など、さらにまた部位により、脳疳・眼疳・口疳・牙疳・脊疳・鼻疳などにわけらえれる。
※中悪(ちゅうあく)-『漢方』①不正の気に触れたり、突然奇怪なものをみて非常に驚き恐れることにより、急に手足逆冷、面色は蒼白となり、精神恍惚、頭面昏暈、あるいは錯言妄語し、甚だしければ口噤、昏厥などの症状を現すこと。②小児の病証。小児の真気衰弱をさし、「悪気」に中ったもの。たとえば『医学綱目』小児部に「其の状卒然と心腹刺痛し、悶乱して死せんと欲す」とある。

 小兒死する者の見様の事

一目に赤筋(あかすじ)出で瞳子を貫き踊り腫れ或は竅を為し指の甲、黒く鼻乾き俄かにしはかれ聲を出し脇腹に青筋出で舌を出し歯を噛み上視つかひし急に啼こと成り難きは生る事なし。
一烏晴(くろまなこ)すはる者は夜死す、面(おもて)青く唇黒きは昼死す、啼て笑はざるは痛み、笑ふて泣ざるは驚風、小兒生れて血気足らず陰陽和せず、臓腑未だ実せず、骨未だ完(まった)からず変生(へんしょう)の後ち三十二日毎に一度発熱す、或は汗し或は不食し或は吐逆し腹下る、是は皆血脈長じて知恵を全たくするの証(しるし)なり、療治せざれども自から瘳(いゆ)るなり、凡そ小兒の病(やま)ひは多くは胎毒(※)又は食に傷(やぶ)らるるなり。
一小兒歩行こと晩(おそ)く髪晩く生ゆるは気血実(みた)ざるなり。
一言語晩きは邪気心にあり。
一歯晩く生るは腎の不足なり。

※胎毒(たいどく)-『漢方』①乳児のある種の病気の発生は、胎中における母体の熱毒と関係があるとの見方からこの名がある。すなわち妊娠中の辛熱甘肥の過食・生活の不節制・鬱怒悲思などによって、五臓の火が母胞に影響し、胎児に伝わって胎毒を結するとされている。

 急驚風(※)

一急驚風は歯を喰(く)ひ詰め熱気さし、涎垂れ手を瞤(びくめ)き口の中熱し頬唇赤く大小便結(けっ)し風邪痰熱多くは肝の臓に属す、陽症なり。百会、人中、印堂(両眉の間)、中衝、大敦、大鐘、合谷。

※急驚風(きゅうきょうふう)-『漢方』この証は小児によくみられ、発病が急で、高熱を発し眼が紅く、昏迷してひきつけ、角弓反張し、両眼は上視し、歯を堅く食いしばり、口から白沫を出し、ごろごろと痰声があるなどが主証であり、故に急驚風と名付けられている。発病の原因は外に六淫の邪を感受したり、あるいは急激な驚きや恐れを感じたり、痰や食の滞りによる。凡そ急性熱病に上述の主証のあるものは、全て急驚風に属し、その中には中枢神経の急性感染症、例えば流行性脳膜炎及び脳炎なども含まれる。

 慢驚風(※)

一慢驚風は脾胃の気不足病後に或は吐逆し、腹下り或は足手寒え上り鼻息熱し手足瞤(びくめ)き眠りて烏眼(くろまなこ)を見し大小便赤く黄に或は醒々(せいせい)として睡らず熱酷(はなはだ)しき時は痰を生ず痰生ずれば復(また)風を生ず治難き陰症なり。隠白、商坵、身柱、驚疳によし。

※慢驚風(まんきょうふう)-『漢方』驚風の一種。慢性のひきつけ。小児の虚寒によるひきつけ、慢性の発作で、顔は淡泊色または青く、身心倦怠し嗜眠する。またゆっくりとした抽搐があり、その発作に休作がある。腹部は陥凹し呼吸は小さく緩やかである。それ故慢驚風と名づけられている。原因には嘔吐・泄瀉の後におこるもの、あるいは急驚が転じて生じるものがある。吐瀉によっておこるものの多くは、大泉門や眼窩が陥没し、肌肉は弛緩して、大便稀薄で尿は少なく、息は冷たく、ひどくなると睡眠中でも目を開く。また四肢の冷え・脈細無力などの症状をともなう。急驚より転じておこるものは、便秘、小便失禁、あるいは尿閉や、ぐっしょり汗をかき舌は紅く舌苔は少しある。邪の盛んな時は、光をまぶしがり、強直して痙攣をおこす。激しい時には、言語錯乱・舌紅・舌苔濁膩などの症状をあらわす。慢驚には、重病の末期に驚厥のあるもの、たとえば結核性脳膜炎なども含まれる。

 疳

一疳(かん)の病は乳母食物を時ならず喰ひ甘き物を過(すご)し暑さ寒さを厭(いと)はず喜び怒を甚しくし酒多く飲み脾胃を傷り其後乳を子に与ふるに因て子の病ひ出るなり、又は久しく吐逆し腹下り痢腹(しぶりばら)など煩ひて必ず其後にて出るなり。晴明、脇髎、九の兪、七の兪、十一の兪、上脘、中脘。

 癖疾(※) 腹脇にある塊りなり世俗にかはらと云ひ又はかたかいとも云ふなり

一小兒の癖疾両の腋にあり乳母不養生にして食物滞り邪気相副(そ)へて成る癖(へき)久しければ食減り脾の臓の気弱く成り癖は皮の内、膏皮(あぶらかわ)の外にあり。脇髎上脘、中脘。
一小兒の大椎より亀の尾まで脊骨を能く探れば血筋(ちすじ)に躍(おど)る所あり是れ癖の根なり其上に銭三文置き押し着けて其孔に灸七壮居るなり。灸いぼへは験あり筋に着ざればいぼはず効(しるし)なし。

※癖疾(へきしつ)-『漢方』小児の病で、大人の積聚に同じ。多くは、脇腹などの所に生じ、時々痛みを生ずる。

 咳嗽 すわふきの事

一小兒肺風に傷らる、巨闕、三の兪。

 嘔吐 からえづきの事

一小兒乳を多く飲で胃を傷る、上脘、中脘。

 泄瀉 さつさつと下る腹なり

一小兒乳を多く飲で脾を傷る、関元、気海。

 夜啼客忤(※) 夜啼はよなき客忤はをびゆるなり

一小兒体熱して心悸して好(このん)で夜啼し或は腹熱し啼時に汗あり、身仰むき或は口舌に瘡ありて腫れ痛で乳を呑む事ならず故に夜啼く心経に熱あり虚なり。
一客忤は物の気を見て忤(おびゆ)るなり、隠白、客忤によし、大都同じ、間使同じ脇髎夜啼に痛む聲を刺す。

※客忤(きゃくご)-『漢方』中客・中人・中悪ともいう。①小児が突然外からの刺激、例えば、物事・大きな音・知らない人などに驚いたために、顔色が青くなり、涎沫を吐し、喘息腹痛し、肢体が瘛瘲(※)し驚癇のような症状をあわらすものを客忤という。②ガスなどの中毒によっておこる急性病。
※瘛瘲(けいしょう)-『漢方』瘈瘲、■(病ダレに制)瘲ともかく。抽搐・搐搦(ちくにゃく)・抽風ともいう。瘛は筋脈が拘急して縮むこと。瘲は弛緩して伸びること。瘛瘲とは手足が伸びたり縮んだりしつづける病証。外感熱病・癇・破傷風などの病証にみられる。外感熱病にみられるものは、熱が盛んで陰を破り、風火が互いに煽動し、痰火が壅滞しておこる。癇病、破傷風によるものは、風痰または痰熱がある。この他、暑熱が気を傷るものは、四肢倦怠、多汗瘛瘲する。脾胃の虚弱があるものは、嘔吐泄瀉して時に瘛瘲する。肝の虚寒があるものは、脇痛・目がくらみ・時々瘛瘲する。過汗・失血の後に気血津液が損傷し、筋脈が栄養分を失って瘛瘲を生ずるものもある。強直性痙攣、ひきつけもこの範囲に入る。

 痘瘡(※) いも(※)の事

一夫れ小兒の痘瘡出んとする時、何を以てか知ん。
一腮(あぎと)赤く胞(まぶた)も亦赤く或時は阿欠(あくび)し或は噴(のび)し嚏(はな)ひ驚き耳の曲り手の指寒ること氷の如し。
一赤き紙の火燭(ひそく)にて見れば皮の内に村々(むらむら)と赤く見る蚊の喰たる如くなるは悪し。
一紫色に赤く山(やま)上(あげ)ざるは火盛んにして血熱す。
一山あげず灰色に白く顚(いただき)凹(くぼ)き者は気血の不足、虚寒の症なり。
一乾痂(かせ)ぬる時、乾痂ずして其痛み中脘にあるは熱毒滞り瘀血痛みを為すなり。
一痛むは実なり痒きは虚なり薬服ざれども能きは足に少し出来、根赤く腹下らず咽(のど)喝(かわ)かず乳を呑むこと減らず手足温かにして身に大熱無きは薬服(のま)ざれども自から痊(いゆ)るなり。

※痘瘡(とうそう)-『漢方』天花(※)ともいう。天然痘のこと。(参考:http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/pox/pox.html)
※天花(てんか)-『漢方』痘瘡のこと。天痘、天行痘、豌豆瘡、魯瘡、虜瘡、雄歳瘡ともいい、『肘後方』では天行発斑瘡という。一種の伝染力の極めて強い悪性の伝染病である。本病は常に発熱・咳嗽・くしゃみ・あくびをしてつかえる・面紅驚悸・手足耳尻とも冷える・身体に痘疹を発するなどの症状をあわらす。
※いも(痘瘡)-『江戸語の辞典』いもがほの略。いもはいもがさの略。あばた。

『選鍼三要集』に録する病症(一部抜粋)

〇傷寒頭疼身熱 二間 合谷 神道 風池 肝募 足三里。

〇汗出でざるには(※) 合谷 腕骨 肝募。

※汗出でざるには-無汗と呼ばれる症状と思われる。『漢方』汗があるべきはずなのに汗のないこと。1)たとえば盛夏・入浴・飲食する時に汗が出ないものは、多くは肌表腠理が暑湿により閉ざされたためであり、湿を化して暑を解し発汗疏表すると良い。2)また外感病で発熱無汗のものは、多くは風寒が表を閉ざしたためであり、散寒解表するとよい。3)陰火がすでに衰えているものも無汗をあらわす。

〇陰症(※)には 肝募 気海 関元。

※陰症(いんしょう)-陰証と同義と考える。『漢方』一般疾病の臨床弁証に対し、陰陽の属性にしたがって、陰証と陽証に分ける。慢性・虚弱・静的・抑制・機能低下・代謝減退・退行・内(裏)向性の証候をあらわすものは、すべて陰証に属する。例えば面色蒼白あるいは暗淡、身がだるく起きていられない、四肢の冷え、倦怠、語声の低弱、静かで言葉が少ない、呼吸の微弱、短気、飲食減少、口淡味覚が無い、煩渇がない、あるいは熱い飲み物を欲し、大便がなまぐさく燥いている、小便は色がなく多くあるいは少ない、腹痛して按ずるを好む、脈象は沈・細・遅・無力で、舌質は淡で腫れてぶわっとしている。舌苔は潤滑である。八綱中の寒証、虚証、裏証はすべて陰証の範囲に属する。

〇腹脹(※)には 太白 復溜 足三里。

※腹脹(ふくちょう)-『漢方』腹の脹ること。湿熱が肝胆に蘊結し、あるいは脾虚、気滞によるものは、腹脹脇痛し、口中が苦く、あるいは甘く、淡膩であったりし、小便は黄赤色、あるいは黄疸・舌苔黄膩・脈弦滑などをあらわす。

〇舌捲き嚢縮まるには(※) 天突 廉泉 血海 腎の兪 然谷。

※舌捲き嚢縮まるには-病状が重く人事不省である状態と考えられる。『霊枢』経脈篇には足厥陰経脈の気が絶した場合に舌が巻き、嚢(卵)が縮まる、という内容がある。

〇中風、人事を省みざるには 百会 風池 大椎 肩井 曲池 足三里。

〇半身遂(かな)はざるには 肩髃 百会 肩井 客主人 列缺 手三里 曲池 崑崙 陽陵泉。

※中風における偏枯と同じ。

〇口眼喎斜(※)には 頬車 地倉 水溝 承漿 合谷。

※口眼喎斜(こうがんかしゃ)-『漢方』口や眼がゆがむこと。中風の後遺症や顔面神経麻痺などにみられる。

〇口喎(つぐ)んで開かざるには 合谷 頬車。

〇瘖瘂(※)には 天突 霊道 然谷 豊隆 陰谷。

※瘖瘂(いんあ)-おし、声が出ないこと。

〇癱瘓(なんかん)には 肩井 肩髃 曲池 合谷 足三里 崑崙。

〇虚癆には 四花を主とすべし、最も鍼に神妙あり腹を主とすべし。

※経穴から癆瘵のことと思われる。

〇盗汗には 肺兪 復溜 譩譆。

〇血症、吐血には 肺兪 心兪 肝兪 脾兪 腎兪 中脘 天枢 太淵 間使 大陵。

〇衂血(じくけつ)には 顖会 上星 風門 湧泉 合谷。

〇便血には 中脘 気海。

〇尿血には 膈兪 脾兪 三焦兪 腎兪 列缺。

〇水腫には 水溝 水分 神闕〔三壮〕 肝兪 脾兪 胃兪 腎兪 中脘 気海 陰交 公孫 石門 中極 陰陵泉。

〇脹満には 中脘 水分 不容 気海 盲兪 天枢 肝兪 脾兪 三焦兪 公孫 大敦。

〇虚癆浮腫には 大衝。

〇積聚痞塊 灸は命門を以て主とすべし、上脘 中脘 幽門 通谷 梁門 天枢 肝募 脇髎 気海 関元。

〇肺の積を息奔と名く右の脇下にあり 尺沢 脇髎 足三里。

〇心の積を伏梁と名く臍上に起り心下に至る 神門 後谿 巨闕 足三里。

〇脾の積を痞気と名く横に臍上二寸にあり 脾兪 胃兪 腎兪 通谷 脇髎。

〇肝の積を肥気と名く左の脇下にあり 肝兪 脇髎 行間。

〇腎の積を奔豚と名く臍下に起り或は上下時なし 腎兪 関元 中極 湧泉。

〇気塊(※)には 脾兪 胃兪 腎兪 梁門 天枢。

※気塊(きかい)-『漢方』仮性腫塊。『漢方医語辞典』

〇膈(※)には 心兪 膈兪 膏肓 脾兪 中脘 気海 天府 足三里。

※膈(かく)-『漢方』①鬲(レキ、リャク)ともいう。横隔膜のこと。②隔と同じく、隔塞して通じない意味。
※隔(かく)-『漢方』①隔塞して通じないこと。②飲食下らず、大便不通のこと。③胸膈の意。④噎膈証のこと。⑤膈と同じ意味に用いられる。

〇咳嗽には 風門 肺兪 身柱。

〇寒痰(※)には 肺兪 膏肓 霊台。

※寒痰(かんたん)-『漢方』①平素より痰疾のあるものが寒さに感じて喘咳し喀唾するもの。痰の色は白く澄んで稀く、舌苔は白く潤っており、脈は滞弦で寒がり四肢は冷える。②陽虚寒湿が相搏つ痰証をいう。多くは足膝痠軟で腰背は強痛し、肢節は冷痹をおこし骨痛する。また虚痰、冷痰ともいう。③痰湿が腎経にあるものをいう。症状は、脈沈で、顔色黒く、排尿は急痛し、足は冷え、心不安を伴なう。またその痰には黒点があり、多量で稀い。

〇熱痰(※)には 肺兪 膻中 大谿。

※熱痰(ねつたん)-『漢方』火痰ともいう。1)もとより痰湿があり、辛い物や焼いたり炙ったりしたものを食べすぎたり、あるいは温暖な部屋に長期間居住することにより、湿邪が熱と化し、肺胃を損傷して生じる痰証のこと。症状としては、脈洪面赤・煩熱心痛・口乾唇燥などを現わし、その痰は固い塊となる。2)痰が心に迷い込むもの。多くは痰熱が相迫り、集まって散じないことによりおこる。症状は痰色は黄色く粘稠で濁り、血を帯び膠のように固く、喀出が困難であり、脈洪・面赤・煩熱心痛・喜笑・癲狂・嘈雑・懊憹・怔忡・口乾唇燥などをともなう。

〇諸喘息には 天突 璇機 華蓋 膻中 乳根 肝募 気海。

〇嘔吐、気逆には 中脘 気海 三焦兪 巨闕 尺沢 脇髎 大陵。

〇霍乱には 巨闕 中脘 建里 水分 承筋 承山 三陰交 陰蹻 大都 湧泉。

〇乾霍乱には 塩湯を以て吐を探る臍中に灸す。

〇喜んで大息(※)す 中封 商丘 公孫。

※大息(たいそく)-太息と思われる。『漢方』深い呼吸のこと。呼気が主となるのでためいきと同義である。一呼一吸を一息という。平常時の呼吸と脈拍は約1対4であり、深呼吸では約1対5となり、このような比率の変化を、脈診上では「閏以太息」と言っている。病理的に、患者が頻繁にためいきをつくようであれば、「善太息」と言われる症状であり、肝胆の鬱結、肺気の鬱滞などによって引きおこされる。

〇喜んで悲しむには 心兪 大陵 大敦 玉堂 膻中。

〇気短(※)には 大椎 肺兪 肝兪 天突 肩井。

※気短(きたん)-短気のことです。『漢方』息ぎれのこと。呼吸が促迫すること。多種の疾病にみられ、虚実の別がある。虚証は形痩神疲、呼吸音が低く、息が微で、頭眩無力し、実証は胸腹脹満、呼吸音粗く、心胸窒悶する。痰飲・瘀阻・気滞などによるものは実証が多く、体弱・久病で真元耗損されておこるものは虚証が多い。

〇瘧疾には 大椎 肺兪 肝兪 天枢 三の椎 譩譆 脇髎 間使 後谿 承山 飛陽 崑崙 大谿 公孫 至陰 合谷。

〇久瘧愈ざるには 脾兪〔七十壮灸す〕

〇黄疸には 公孫。

〇消渇には 腎兪 小腸兪。

〇瀉痢には 百会 脾兪 腎兪 命門 長強 承満 梁門 中脘 神闕 天枢 気海 石門 関元 三陰交。

〇脾泄(※)には 脾兪。

※脾泄(ひせつ)-『漢方』脾病による泄瀉をさす。常に肢体が重く、脘腹を病み、顔色は虚黄などの兼症がみられる。

〇胃泄(※)には 胃兪。

※胃泄(いせつ)-『漢方』胃の気が虚して飲食物が消化されないこと。

〇大腸泄(※)には 大腸兪。

※大腸泄(だいちょうせつ)-『漢方』大腸の虚寒により、約束の力がなくなることによりおこる。

〇癲癇には 百会 窓籠 身柱 神道 心兪 筋縮 脇髎 天枢 労宮 神門 三里 下巨虚 豊隆 大衝 曲節 厲兌。

〇眼目頭痛には 合谷 外関 後谿。

〇耳聾(じろう)には 上星 翳風 腎兪 外関。

〇鼻塞つて香臭を聞かざるには 顖会 上星 迎香 天柱 風門。

〇歯牙痛むには 承漿 頬車 合谷 列缺 大淵 魚際 合陽 三間 大迎 足三里 内庭。 

〇喉痺には 天柱 廉泉 合谷 後谿 三間 三陰交 行間 関衝。

〇手痛んで挙らざるには 曲池 肩井。

〇脚気には 肩井 足三里 崑崙 陰蹻 大衝 陽陵泉。

〇転筋には 陰蹻。

〇脱肛には 百会。

〇五淋には 膈兪 肝兪 脾兪 腎兪 気海 石門 関元 間使 三陰交 復溜 然谷 大敦。

〇小便利せざるには 三焦兪 小腸兪 陰交 中極 中封 大衝 至陰。

〇小便禁せざるには 気海 関元 陰陵泉 大敦。

〇大便秘結には 脇髎 陰交 気海 石門 足三里 三陰交 陰蹻 太白 大敦 大都。

〇疝気(※)には 脇髎 期来 気海 関元 三陰交 大敦 隠白 大谿 大衝。

※疝気(せんき)-『漢方』疝に同じ。気痛に属するものが多いので、この名がある。

〇痔には 腎兪 命門 長強 承山。

〇類経に曰く凡そ屍鬼(しき)に犯され暴厥して人事を省みず、若くば四肢冷へて気なしと雖ども但目中神采(しんさい)変せず心腹尚ほ温かに口中涎なく舌捲ず嚢縮まらざることを覚へ、及び未だ一時を出でざるものは尚ほ之を刺して復醒むべし。
 謹んで按ずるに素問遺篇に五邪の刺法を分つ。
 肺虚するものは赤屍鬼を見る 肺兪〔一半分〕 合谷〔三分〕。
 心虚するものは黒屍鬼を見る 心兪 陽地。
 肝虚するものは白屍鬼を見る 肝兪 丘墟。
 脾虚するものは青屍鬼を見る 脾兪 衝陽。
 腎虚するものは黄屍鬼を見る 腎兪 京骨。
  以上の刺法必ず先づ口を以て鍼を含み温煖なら令て之を刺す。

婦人病

〇血結ぼれ月事調はざるには 気海 中極 陰蹻。

〇血崩(※)止まざるには 膈兪 肝兪 命門 気海 中極 間使 血海 復溜 行間。

※血崩(けつほう)-『漢方』崩漏の一つ。崩中ともいう。婦女の陰道により、大量の出血があるもの。子宮出血の甚だしいもの。山崩れに様相が似ているのでこう呼ばれる。

〇痢帯の赤白 命門 神闕 中極。

〇癥瘕には 三焦兪 腎兪 中極 会陰。

〇孕むこと成らざるには 命門 腎兪 気海 中極 関元〔百壮〕 然谷。

〇産難横生 合谷 三陰交。

〇胞衣下りざるには 三陰交 崑崙。

〇死胎下すには 合谷妙なり。

〇胎を取らんと欲せば 肩井 合谷 三陰交。

小兒病

〇急慢驚風 百会〔七壮〕 顖会 上星 率谷〔三壮〕 水溝 尺沢。

〇慢驚には 間使 合谷 大衝〔五壮〕。

〇臍風(※)撮口(※)には 承漿 然谷。

※臍風(さいふう)-『漢方』撮口・噤風・風搐・七日口噤・四六風・七日風などともいう。すなわち新生児の破傷風のこと。歯をかたく閉じ、強直性の痙攣・角弓反張・顔面が苦笑したようになるなどをあらわす。重症の場合は顔面は青く、呼吸が急迫して死亡することがある。病因としては、主に断臍時の不潔、あるいは臍帯の脱落が早過ぎたりして、局部に傷をつけ感染することによって生ずる。
※撮口(さっこう)-『漢方』撮風、唇緊ともいう。症状は、口唇を堅く閉じ、魚の口のようにつぐむのを特徴とする。さらに舌がこわばり、唇青く、痰涎が口にあふれ、呼吸促迫し、啼き声が出にくく、身熱面黄などの症状をともなう。これは小児が胎中において熱を受けたり、母の邪熱が伝染したり、入浴の際に風に当たったりすることによりおこる。

〇泄瀉には 胃兪 天枢

〇霍乱には 外踝の尖りへ灸三壮す立地に効あり。

〇夜啼には 中衝。

〇疳眼(※)には 合谷〔五壮灸す〕

※疳眼(かんがん)-『漢方』小児疳眼のこと。疳眼・疳毒眼・疳疾上目ともいう。小児の疳積につづいて発するもので、主に脾胃を虧損し、精血が不足し、目が栄養されず、そこに肝熱が上亢しておこる。目が乾いて渋り、明るさをいやがり、黒睛に翳を生じ、潰穿して蟹睛、旋螺突起となる。甚だしい場合は、眼球が枯萎して失明する。

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杉山流三部書にみる病症名 以上。